読書百遍

 

或る時私は先生より、
「あなたは和漢三才図会をよんだことがありますか。」
と聞かれ、
何気なく「読みました」と答えた処、非常に叱られた。
その際先生はこう云つた。
「今の人間は本の数さえ沢山よめばそれでよいと思つているが、
それでは本当のことはわからん。
三才図会のようなよい本になると、
一通りや二通り読んだゞけでは駄目です。百ぺんでも二百ぺんでも読んで、
生きた人間にあてはめて見て、
わからん処のなくなるまで読まねばなりません。
あなた方の読んだというのは、それは本当に読んだのではない。
ただ眼で見たゞけに過ぎない。」

 

むかしのひとは、こうやって本を読んだのでしょう。
代田文誌著『沢田流聞書 鍼灸眞髄』(医道の日本社、1941年)にでてくることば。
先生とは、
昭和の鍼灸名人・澤田健。

 

・おほなゐを録すばせをや蚶満寺  野衾