面接

 雪よりも我をみて居り電気箱
 リクルートのサイトで告知し、営業事務の募集をかけている。
 前に勤めていた会社から数えると、面接した人の数は相当にのぼる。縁のあった人もいれば、お断りした人もいる。いろんな人生を背負って、今こうして目の前にいるのだと、なんの脈絡もなく、ふと、そんなふうに感じることがある。
 社員が出したお茶を両手でていねいに飲む仕草、ほつれて下がる前髪をかきあげる仕草、ちょっとした質問に、自分の内側を見るようにしてぽつりぽつりと話す目の表情にも時の経過がうかがい知れる。たまたま面接する側に廻っているけれど、わたしだってそうなのだ。
 有名私立大学で哲学を、それも、関係性のなかに潜むあの深い謎を開示してくれたマルティン・ブーバーを専攻したという、恋月姫な眼差しの、ぴっちりしたミニスカートの裾を気にしながらわたしの質問に答えた彼女は、合格したのに結局、来なかった。電話口で、どうしてわたしは合格したのでしょうかと、逆に訊かれた。前の会社でのことだ。
 春風社を起こして3年目だったろうか、夕刻、新宿東口から四谷方面に向って歩いていたとき、不意に目が合った女性がいた。すぐにあのときの彼女だと分かった。彼女のほうもわたしを認知したようだった。目礼し、ほんの1、2秒ののち、互いにすれ違った。どんな時間を送ってきて、今どうしてここを通過したのだろう。彼女もきっと、そんなことを思いながら新宿駅に向って歩いているのだと、理由はないけれど、そう思った。

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