臼井吉見さんのこと

 

対談集をふくめ、これまで何冊か自分の本を出してきました。
その都度、
会社の質的発展になんらか資するところがあれば
と願ってのことで、
その気持ちに嘘はないのですが、
先日、
社内で編集者と話していたときに、
臼井吉見さんの『安曇野』に触れる機会があり、
じぶんのことなのに、アッと驚きました。
臼井さんは長野県のご出身。
筑摩書房の創業者・古田晁(ふるたあきら)さんと同郷で、
筑摩書房の創業にもかかわった方です。
筑摩書房の装丁は、なんとなくほのぼのしていて、
緑や空や風や土がイメージでき
若い頃から好きでしたが、
とくに貼り箱入り五巻ものの『安曇野』は、
内容と相まって、忘れることのできない、わたしの愛読書といっていいと思います。
その後ちくま文庫に入りました。
『安曇野』には新井奥邃さんをはじめ、
歴史上の人物が実名で登場します。
『安曇野』が圧倒的に面白かったので、
当時、ほかにも臼井さんのものを探して読んでいました。
臼井さんは、編集者であって、本を出している…。
そのことを知らないわけではなかった
けれど、
じぶんの本を出すことと結びつけて考えたことは、これまでありませんでした。
が、
いま思えば、
編集者かつ『安曇野』の著者、
そのイメージがわたしのなかに無かったとはいえないのではないか、
いやむしろ、あっただろうと思って、
じぶんの選択が、
じぶんの意思で行った選択が、
もっと深いところからいただいた栄養によってなされたかもしれないなあ、
と、そんなふうに感じて驚いた次第です。

 

・秋寒の厨油の撥ねる音  野衾