お笑いの人の本

 

とくにだれかの、どのコンビの熱烈なファン、ということはないのですけれど、
テレビにお笑いの人がでていると、なんとなく見てしまい、
ときどき声を出して笑ったりすることがあり、
そうすると、
そのひと、そのコンビが気になって、
本を出していないか調べたりし、
出していればさっそく買って読むことがあります。
このごろでいえば、
錦鯉の『くすぶり中年の逆襲』本体1300円(税別)。

 

長谷川 基本的に1日1食。100均で買う8枚切りの食パン。
もちろんトースターなんてないから、そのまま。
渡 辺 何もつけないの?
長谷川 いや、マヨネーズをつけるんだ。これも100均で買ってね。
それをパンの表面に塗るんだけど、まんべんなく塗ると味がしつこくなるから、
パンそのものの風味も味わいたいので、
「く」の字に塗るんだ。
渡 辺 「く」の字?
長谷川 「区」だよ。足立区の「区」。これだと右の一辺が何も塗らないから、
素材そのものを味わえるんだよ。
渡 辺 偉そうな講釈はいいけど、なんで足立区なんだよ!
たとえの意味が分かんないよ!
長谷川 それも、ボクは一筆書きで「区」を書けたからね。
渡 辺 まさにスプーンいらず。榊莫山先生なみの達筆だよ
……って、

今の若い人には莫山先生って言っても、
誰も知らないぞ。
長谷川 莫山先生の「莫」って、ずっと大和田獏さんの「獏」だと思ってたからね。
渡 辺 どうでもいいよ、そんなこと!
ていうか、莫山先生で、ここまで引っ張るなよ!
長谷川 その「区」に塗ったパンを8枚、一気に食べるんだ。
渡 辺 食べすぎでしょ。4枚でも十分だぞ。
(錦鯉(長谷川雅紀 渡辺隆)『くすぶり中年の逆襲』新潮社、2021年、pp.119-121)

 

ふたりの対話形式で編集されており、テレビでのふたりの姿を彷彿させます。
どうでもいいような小さいことへのこだわり、
それと、論点が少しずつズレていく、
その感じ。まさに錦鯉
って感じ。
たとえば引用した箇所だと「足立区の「区」」でつい笑ってしまい、
それもクスっ、でなく、
アハハハ…と声を出してしまいまして、
いつものことながら、
家人に軽く注意を受けました。
と、
いま気づいた。
なにかっていうと、このブログに引用するときに、
どの本についても引用が間違ってないか、
五、六回は本と画面を見比べ照らし合わせ(それでも間違えることがあります)
て読み返すことになるわけですけど、
上の箇所を読み返しながら、
渡辺さんの長谷川さんへの気遣いというのか、
思いやりというのか、
そういうのが、
ズラしのテクニックとあいまって、
さり気なくでている気がし、
そういう感じがテレビで見ていてもしたのかな
って、いま思いました。

 

・丸まると肥えた獣の簾越し  野衾