こころを育てる

 

高校に入学して間もないころ、
祖母が新聞紙にくるんだ、ずっしり重いものを持ってきて、わたしの目の前で広げてくれた。
二宮金次郎の像。
祖母が若いころ世話になった旅館の女将さんから、
孫のわたしへのプレゼントだと言って、
渡してくださったものでした。
いまも、本棚の一隅を占めています。
下の文章を読んだとき、
また、本棚の像に目が行きました。

 

2019年シーズンのオールスターゲームを挟んだ時期に、
清宮幸太郎がバッティングに苦しんでいました。
10試合以上もヒットが出ず、32打席連続で安打が出なかった。
打率は2割を切ってしまった。
調子が上向かないなかで、
彼は必死に練習に取り組んでいました。
「なかなか結果が出ないこの時期をどう生かすのかは自分次第です」
とも話していました。
だとすれば、
監督に必要なのは忍耐です。
幸太郎を信頼して使う。
先発で起用しないこともありますし、
先発で使っても代打を送ることもある。
けれど、
彼の結果に対してジタバタしない。
あたふたもしません。
自分の身を正して、心を正して、清く正しく生活していく。
愚直な積み重ねこそが、
周りの人たちに響くのだと信じます。
穏やかな波のように、
ゆっくりと広がっていく。
正しい心、正しい行ない、正しい言葉遣い、正しい努力を続けて、心を成長させていく。
自分自身の成長によって組織にいい影響を与えたい、
と私は考えます。
(栗山英樹『栗山ノート』光文社、2019年、p.146)

 

すぐに、WBCで村上宗隆さんを起用しつづけ、
それが最後に、
あのようなすばらしい結末につながったことを思い出しました。
上で引用した清宮さんを思うこころと、
村上さんを思うこころには、
共通したものがあるようです。
「忍耐」のことばに目がとまります。
ただ、
WBCで、ずっと栗山監督のそばいてサポートしたヘッドコーチが語った
「日に日にやつれていく栗山さん」
のエピソードは、
生半可なことではないとも思います。
信じることは、
生易しいことではなさそうです。

 

・閑さのうちを賑はふ春日かな  野衾