栗山監督と翔平さん

 

大谷翔平(現・ロサンゼルス・エンゼルス)がファイターズでプレーしていた当時も、
胸騒ぎに襲われたことがありました。
ケガの予兆を察したら、
ほぼすべてのケースで無理はさせませんでした。
周囲からは過保護に映ったかもしれません。
コーチには
「翔平への愛を出し過ぎです」
と言われたりもしました。
自分では
「いやいや、出し過ぎではないよ」
と思っていましたし、
翔平も私とは意識的に距離を取っていました。
高校を卒業したらメジャーリーグへ行きたいと明言していた彼を、
ドラフト1位で指名してファイターズで引き受けたのです。
日本のプロ野球でステップアップさせて、
メジャーリーグへ送り出すという大きな責任が、
私にはありました。
彼の野球人生が成功することに妥協をしなかったからこそ、
小さな変化を見落とさなくなり、
ケガのリスクに敏感になっていたのだと思います。
監督としての経験ではなく愛情
――母親が子どもの表情やしぐさから体調や感情の浮き沈みを読み取る、
ということに似ていたのかもしれません。
(栗山英樹『栗山ノート』光文社、2019年、pp.58-9)

 

WBCでの優勝から、栗山英樹さんについてもっと知りたいと思い、
読んでみました。
『論語』『書経』『易経』をはじめ、
先人の本を多く読み、
じぶんにとって参考になると思われることばを、
その都度ノートに書き記し、
くり返し読んできたそうです。
プロ野球の監督といっても、タイプはいろいろでしょうけれど、
この本を読むと、
日々、
研鑽と努力を怠らない謙虚でまじめなひととなり
が浮かび上がってきます。
大会終了後、
WBCの日本チームの選手たちに話をする栗山監督の動画が公開され、
そのときの翔平さんの姿に好感をおぼえた
という人の
コメントがアップされていました。
たしかに、
なにげない、さりげない姿に、
監督への気持ちが表れていると感じます。
翔平さんの人柄もあるでしょうけれど、
これまで二人が培ってきたもの、
気持ちの行き交いが垣間見られた瞬間でもあったかと。
倦まず弛まず、
仕事を思い、ひとを思うことの大切さを、
本からも教えられます。

 

・「小手指」が耳に「小手先」春うらら  野衾