まるで、どぶろっく

 

お笑いで、どぶろっく、というコンビがいます。
コンビ名の由来は「どぶのような男」と「ろくでもない男」から、
とのことで、
くだらねー、と思いながら、
テレビを見つつ大声を出している自分に気付くことがあります。
どぶろっくのネタに、
「もしかしてだけど」というギターの伴奏とともに歌う歌があり、
意識過剰の男が
「もしかしてだけどもしかしてだけど、…………。それってオイラを誘ってるんじゃないの」
と、意識過剰に妄想します。
これがアタマに焼き付いていたのでしょう。
『カサノヴァ回想録』を読んでいたら、
「もしかしてだけど」のフレーズが頭蓋のなかで響きわたり、
だれもいない部屋でただ一人、
大声を上げて笑っていた。

 

多くの聴衆のなかでわたしが心を打たれたただひとりの婦人は、若く大柄で、
つつましげな様子の娘だった。
かの女は褐色の髪をし、
大変姿もよく、極めて飾らない身なりをしていた。
そして、
このひどく心をひかれた娘は、
その美しい目を一度だけわたしのほうにちらと向けたが、
その後は二度と見向こうとしなかった。
わたしは虚栄心から、
すぐにこの娘の態度は
その整った美しさを全く自由にわたしに観察させるためにほかならない
と考えた。
(ジャック・カザノヴァ[著]窪田般彌[訳]『カザノヴァ回想録 4』河出書房新社、
1969年、pp.22-3)

 

これなど、
「もしかしてだけどもしかしてだけど、…………。それってオイラを誘ってるんじゃないの」
の歌詞にピッタリです。
超インテリ、冒険家で稀代のモテ男のジャック・カサノヴァですが、
こういう笑える箇所がちらほらとあり、
それがいい香辛料となって、
長編なれど、胃にもたれることがありません。

 

・冬沈み無音の朝のぬくみかな  野衾