記憶と想像力

 

記憶にもとづかない想像力がないように、
すでに想像力の側面を含まない記憶も存在しないのである。
記憶を呼び戻すという行為は、
同時にメタモルフォーゼである。
(編集/校閲 和泉雅人・前田富士雄・伊藤直樹
『ディルタイ全集 第5巻 詩学・美学論集 第1分冊』
法政大学出版局、2015年、p.492)

 

記憶の変成作用は、
としを重ねるほどにおもしろく感じられます。
今道友信さんの本のなかで、
外国の知人から告げられたとして、
「神の人間への最高の贈り物が自由意志であるのに対し、
人間の人間への最高の贈り物はよき思い出である」
ということばが紹介されていました。
長田弘さんの詩集に『記憶のつくり方』
がありますが、
記憶となる種は過去のある時点で蒔かれたとしても、
育たないで枯れてしまうこともあるでしょう。
生きてはたらく記憶は、
まさに今のわたしを生かしてくれます。

 

・節くれの指より落つる箸の凍て  野衾