人麻呂と中国

 

伊藤博の『萬葉集釋注』は六に入りました。
この巻には
柿本人麻呂の歌が多数収録されていますが、
こころをすなおに表現する「正述心緒」、
物に託してこころを陳べる「寄物陳思」ということばは、
人麻呂の考案であるらしい
と書かれています。
ただ、
ことばとしての「正述心緒」「寄物陳思」
は人麻呂の考案でも、
分類の発想そのものはどうやら
詩経を初めとする中国文献によっているようです。
柿本人麻呂もそうですが、
万葉の歌人たちがいかに中国のものを読み込み勉強したのかを
あらためて思わされます。
たとえば令和という語は
たしかに万葉集にあるけれど、
すでに中国の文選にでてくる用語です。
また、
万葉集そのものが
中国の詩経や文選に学んだ歌人の歌によって成り立っている
(それだけではないと思いますが)
ことを考えると、
日本独自ということは
なかなか言えなさそうだし、
それよりも、
先人(この場合は中国)の知恵
に学ぼうとしたこころに
むしろ打たれます。

 

・紅葉かつ散るノーサイドホイッスル  野衾