たこちゃん

 

・三渓園まで冬を迎へに山手より

 

季節はすっかり冬めき、
寒々したきょうこのごろであります。
会社を出ると、
そとはとっぷりと暮れ。
紅葉坂の横断歩道をわたって右に折れ、
寒さをこらえ歩いていると、
「たこちゃんでちゅかー
たこちゃんでちゅかー
そうでちゅよー
みみちゃんは
そうなんでちゅかー
ママは
ふんふんふんふん
パパはねー
おしごとなんでちゅよー
もうすぐかえりまちゅからねー
……」
思わず振り返って見てみました。
黒いダウンを着た男が
スマホを耳にぴったりとあて、
歩道を行き交う少なくない人のことなど
ものともせず、
たこちゃんでちゅかー
を連発。
わたしはといえば、
振り向いた体をもとに戻し、
うつむきながら、
たこちゃんとは、
貴子?孝子?多香子?
はたまた多貴子?多津子?民子?(それはないか)玉子?(それもないか)
たら子?(それは絶対ない)
いずれにしろ、
「た〇こ」があまりかわいくて
「たーこ」になり、
「たーこ」が短くなって「たこ」になったのだなと、
ひとり考えをめぐらし
歩いたのでした。
たこちゃんでちゅかー。
おわり。

 

・初しぐれ猿も小蓑もなかりけり  野衾