春隣

 

あたたかくなりました。
玄関で靴を履き、階段を下りて外に出、その日の気に触れます。
しばらく立ち止まって深呼吸するときもあれば、
ただ景色をながめているときもあります。
さいしょの角まで歩いて西の方を見やれば、
高速道路をはさんで向こうの丘にあるマンションの間から、
雪を冠した富士山の頂上が
ほんのすこしだけ見えています。
このあいだ病院へ行く朝、
小さな公園を突っ切って丘の上に立ったときも、
やっぱり富士山が見えたっけ。
富士の高嶺にふる雪は。
いろいろなことを思う毎日がはじまります。
いろいろは思わないにしよう。
帯文の背に「世界を新しく」
と入れよう。
世界は日に日に新しく、刻々新しい、
ことを感じられる日はうれしい。

 

・足伸ばし指の先まで初湯かな  野衾