天に向う声

 丘登り滾るものありふきのとう
 このごろサム・クックの歌をよく聴いている。
 スティーヴィー・ワンダーやオーティス・レディングのルーツを辿っていくとサム・クックに行き着く。
 その彼がソウル・スターラーズと共にスペシャルティ・レーベルに録音した3枚組のものを先日購入し、さっそく聴いた。
 若き日のみずみずしい声が記録されているのはもちろん、グループのほかのボーカリストと交替で歌っている歌を聴くと、この非凡な歌手の声がいかに違っているかがはっきりと聴きとれる。
 上手い下手というレベルを超えて、若く荒削りであっても、その声は天井へと向う。ほかのメンバーのほうが歌としては、ひょっとしたら上手いのかもしれない。しかし、そんなこととは別に、歌そのものの質と方向性がまったく異なる。天才とよびたくなる所以だ。
 わたしがこれまで聴いたなかで、もう1人こういう質の歌い手がいる。カッワーリのヌスラット・ファテ・アリ・ハーンだ。
 ふきのとうお前は寂しくないのかい

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面接

 雪よりも我をみて居り電気箱
 リクルートのサイトで告知し、営業事務の募集をかけている。
 前に勤めていた会社から数えると、面接した人の数は相当にのぼる。縁のあった人もいれば、お断りした人もいる。いろんな人生を背負って、今こうして目の前にいるのだと、なんの脈絡もなく、ふと、そんなふうに感じることがある。
 社員が出したお茶を両手でていねいに飲む仕草、ほつれて下がる前髪をかきあげる仕草、ちょっとした質問に、自分の内側を見るようにしてぽつりぽつりと話す目の表情にも時の経過がうかがい知れる。たまたま面接する側に廻っているけれど、わたしだってそうなのだ。
 有名私立大学で哲学を、それも、関係性のなかに潜むあの深い謎を開示してくれたマルティン・ブーバーを専攻したという、恋月姫な眼差しの、ぴっちりしたミニスカートの裾を気にしながらわたしの質問に答えた彼女は、合格したのに結局、来なかった。電話口で、どうしてわたしは合格したのでしょうかと、逆に訊かれた。前の会社でのことだ。
 春風社を起こして3年目だったろうか、夕刻、新宿東口から四谷方面に向って歩いていたとき、不意に目が合った女性がいた。すぐにあのときの彼女だと分かった。彼女のほうもわたしを認知したようだった。目礼し、ほんの1、2秒ののち、互いにすれ違った。どんな時間を送ってきて、今どうしてここを通過したのだろう。彼女もきっと、そんなことを思いながら新宿駅に向って歩いているのだと、理由はないけれど、そう思った。

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ポテトサラダ

 することも無し籠り雪見酒
 このごろジャガイモをよく食べる。玄米粉クリームを常食にした頃から、素材の味を楽しむようになったのか、とくにジャガイモがうめ〜な〜と思う。
 週に二度三度と足を運ぶカレー屋で野菜カレーを頼む大きな要因は、ジャガイモの素朴な甘味を楽しみたいからだ。そして何よりも、1日のフィナーレに相応しいのがポテトサラダ、187円、フジスーパー。
 スーパーの中でおばさんたちが手作りしているもので、変に凝った味付けをしていないのがいい。
 正月、秋田に帰ったとき、母が作ってくれたポテトサラダを食べたら、すごく甘かったので、思わず「砂糖を入れたろう! 砂糖をこんなに入れたら体に悪いだろう!」と言ったら、「グラニュー糖だから大丈夫!」と、母は分けのわからないことを言った。
 それはともかく、ジャガイモ。おでんに入っているジャガイモも美味い。玄米とジャガイモと豆腐と塩と水は欠かせない。

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編集者冥利

 ベランダを猫行く遥か雪化粧
 昨年10月、小社の目録「学問人」とPR誌「春風倶楽部」を合体させ「春風目録新聞」を発刊し、今、その第2号を準備している。
 今回のテーマは「今って、どんな時代!?」
 言葉はもともと、モノやモノゴトに触れ、それを名指すことから始まっているのに、いつしかモノやモノゴトとの生々しい関係が失われ、なんのための言葉かわけがわからなくなっている、気がする。言葉本来のありようを考えるために、「今を生きる詩・短歌・俳句」のコーナーを設けることにした。
 昨日、アタマをプチプチ言わせて校正校閲にかかっていたのだが、最早にっちもさっちもいかなくなり、ふらりと立ち上がり、エレベーターで下に降りた。何気なく郵便受けを見ると、ビニールの袋に詰められた見たくもないDMが2、3通。その下に葉書が2枚ひっそりと隠れていた。1枚は女優の冨士眞奈美さんから。1枚は詩人・俳人の加藤郁乎さんから。お二人とも執筆「諾」。やったー!!
 加藤さんのは、敬愛する飯島耕一さんが「最後の江戸人」とよぶに相応しい字体と文で、バッ!と視野が広がるようだし、冨士さんのは、ラブレターのようにこころに染みた。
 お二人の葉書で1日が救われたような気がした。
「春風目録新聞」第2号、面白くなるぞー!!

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人相

 寂しさや夢に降りしく昼の雪
 五木寛之と帯津良一の『健康問答』のなかに面白い話が出ていた。
 帯津さんは埼玉県川越市にある帯津三敬病院の院長で、西洋医学はもちろんだが、代替医療、民間療法を積極的に取り入れているという。
 たとえば、鍼灸を受けたい、サプリメントを飲みたいという患者がいて、相談されるらしい。どういうことに気をつければいいのでしょうか…。帯津さんは、鍼灸の先生の人相を見なさいと言うらしい。サプリメントも、あまり高価なものはダメ、また、それを売る営業マンの人相をよく見なさいと。
 東大を出て、西洋医学をきちんと修めた医学者が、真面目に、人相で判断しなさいというのはなんだか愉快。
 帯津さんの人気は、ひとつのことに縛られない、こういう柔軟さ、自由さにあるのかもしれない。

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6時半

 霜柱ザクザク踏みし男あり
 わたしの起床時刻でありまして。目覚ましの音楽は、ケータイにダウンロードしたジョージ・ベンソンのギブ・ミー・ザ・ナイト。朝なのに、ナイト。
 休日、30分遅らせて7時に起きていい時の目覚まし音はサラ・マクラクランのエンジェル。ほかに、5時半、6時、7時半のも、それぞれに起床音楽がある。
 起きたら、まずは乾布摩擦、ダンベル体操。この季節、7時ちょっとまえに鎌倉街道を挟んで向いの丘の上に朝日が昇る。なんとも清清しい。
 さて次は、STEVEN HALPERNのCHAKRA SUITEをボリュームを抑え気味にかけ、それに合わせて築基功。きのう入手したばかりの京都・彩巴亭のオリジナルのお香を薫いて。
 この日記も含め、プライベートな朝の儀式です。
 霜柱踏みつけ邪悪がもたげたり

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