或る時私は先生より、
「あなたは和漢三才図会をよんだことがありますか。」
と聞かれ、
何気なく「読みました」と答えた処、非常に叱られた。
その際先生はこう云つた。
「今の人間は本の数さえ沢山よめばそれでよいと思つているが、
それでは本当のことはわからん。
三才図会のようなよい本になると、
一通りや二通り読んだゞけでは駄目です。百ぺんでも二百ぺんでも読んで、
生きた人間にあてはめて見て、
わからん処のなくなるまで読まねばなりません。
あなた方の読んだというのは、それは本当に読んだのではない。
ただ眼で見たゞけに過ぎない。」
(代田文誌『沢田流聞書 鍼灸眞髄』医道の日本社、1941年、p.143)
引用した文の「先生」とは、鍼灸の名人で、天才とも称された沢田健。
以前、
お世話になっている朝岡鍼灸院の朝岡和俊先生
との対談の折にも取り上げた本。
どういうきっかけ、なんの因果か忘れましたが、
不意にこの本のことが思い出され、
いい機会かもしれないと思いましたので、
数年前に買って会社に置いたままの、平凡社の東洋文庫に入っている口語訳『和漢三才図会』
を一巻目から読みはじめました。
いま四巻目。
全部で十八巻あります。
三才とは、天、人、地、
著者の寺島良安は医者ですから、人体に関して、鍼灸に関しては、
なるほど、
沢田先生がおっしゃるのも宜なるかな
ではありますが、
これはどうなの? と首を傾げるような記述(とくに外国の地誌、外国人の特性に関して)
もあり、
笑ってしまう絵が少なくありません。
江戸時代の百科事典のようなものですから、
ゆっくりページを繰っていると、
かの時代にワープしたような妙な感覚に捕らわれます。
しばらくは、
江戸でうろうろすることにします。
・打ちとけて風鈴の音に語るかな 野衾