さびしさを

 

廿二日 朝の間雨降。けふは人もなく、さびしきまゝにむだ書してあそぶ。
其ことば、
「喪に居る者は悲《かなしみ》をあるじとし、
酒を飲《のむ》ものは樂《たのしみ》あるじとす。」
「さびしさなくばうからまし」
と西上人《さいしやうにん》のよみ侍るは、
さびしさをあるじなるべし。
(松尾芭蕉「嵯峨日記」より。
中村俊定校注『芭蕉紀行文集 付 嵯峨日記』岩波文庫、1971年、p.127)

 

しずかなことばが身に沁みます。
松尾芭蕉は、はるかに見上げる文人ではありますが、
引用したような文言に出くわすと、
山からすたすた下りてきて、
すぐとなりに居るような錯覚をおぼえ。
じぶんの楽しみとして、
荘周、西行を読み、
また書いていたことを知り、
その姿、空間、時間、気配までがしみじみと想像され、
文を読むことの味わいを改めて思い、
見知らぬ芭蕉が親しき友のようにすら感じます。

 

・竹林を漏れて光の溽暑かな  野衾