桂川さんの装丁

 

今月五日に亡くなられた桂川潤さんに、拙著も装丁(本文レイアウトも)していただきました。
石巻片影
いまこの本を手に取り、ページをひらくと、
本づくりにかかわった時間がしずかに蘇ります。
写真と文字が載っている、
いわば白のキャンバス
がよく利いていると思います。
これが桂川さんの精神をよく表しているようです。
桂川さんは、
じぶんの主張はしっかりと持っていましたが、
オレが、オレが、と、つよく主張する人ではありませんでした。
体の前で両手を合わせ、静かに控え目に立っている、
そんな姿が浮かんできます。
こちらの話にじっと耳を傾け、
著者のこころを深く汲んでくださいました。
どの本に対してもそうだったでしょう。
こんなことがありました。
わたしが担当している本についてイメージを伝えたところ、
桂川さんは自身でテキストを読み、
ジャケットデザインに関してわたしのものとは異なるイメージを持たれたらしく、
そのことを連絡してきました。
それがとても素晴らしく、
わたしは当初のじぶんのイメージを取り下げ、
桂川さんのイメージで進めてほしい旨を電話で告げました。
わたしは桂川さんを信頼していましたし、
桂川さんも、
わたしを信頼してくれていたと思います。
いっしょに仕事ができたことがわたしの誇りです。
上で「白いキャンバス」と書きましたが、
桂川さんは、若いころ、画家を目指した時期があったそうです。
装丁の仕事に関して
『本は物である――装丁という仕事』
『装丁、あれこれ』
があり、
二冊とも、
いかに愛情をもって本づくりをしていたかがしみじみ伝わってくる名著ですが、
それを支えていた「白いキャンバス」を思います。
同じ白い紙なのに、
桂川さんの装丁における白は、
本によって意匠はいろいろあるけれど、
テキストをやさしく持ち上げ、
やわらかい光を発しているようにも感じます。
年に120冊(!)ほどの本を装丁していたそうですが、
白の利いた装丁が多かった気がします。

 

・マンボウが自転車で行く溽暑かな  野衾