威厳破れたり!!

 

拙宅から見える南側の丘の上、
三角帽子の屋根のアンテナに連日一羽のカラスが止まる。
彫像のようにじっと動かない。
遠くからなのではっきりしたことは分からないが、入れ替わりでなく、
同じカラス、
かもしれない。
当たって欲しくない予報が的中し、
きのうは朝から雨が静かに降っていた。
向こうを見やれば、
一幅の絵のようにして、アンテナにカラス。
会ったことはないけれど、
メフィストフェレスのごとき佇まい、
泰然自若の姿を見よ。
と。
羽を広げ俄かに飛び立ったかと思いきや、
そう遠くない、馬の腹のようなる少し弛んだ電線に体を預けた。
あてが外れたか、電線が、揺れ始める。
揺れる。
揺れる。
揺れがだんだん大きくなる。
しばらく威厳を保っていたカラスは、
一本の綱の上のお笑い芸人よろしく片足を大きく外し(ちょっと話を盛りすぎた)
ついにバランスを欠き、
こらえ切れずに飛び立った。
飛び散ったのは雨か、はたまた冷や汗か。
焦ったろう。
焦ったに違いない。
こちらからわたしがじっと見ていたことなど知る由もなく。
カラスの威厳が破れた瞬間であった。

 

・水含みハンカチを持つ少女かな  野衾