「ぜ」について

 

3番の歌詞に「今日こそキッスしてやるぜ」というのがありますが、
この〈ぜ〉を流行させたのはご存知、石原裕次郎でした。
「俺は待ってるぜ」と〈イカス〉男の言うセリフだったわけです。
そして歌謡界最後の、〈ぜ〉男は近藤真彦です。
昨今の男の子事情からして、
もう彼の後に〈ぜ〉が似合う男の子は登場しないのではないでしょうか?
裕次郎の〈ぜ〉には〈余裕〉が、橋の〈ぜ〉には、〈勇気〉が、
マッチの〈ぜ〉には〈から元気〉を感じてしまうのですが、
これも時代なのでしょうか?
しかし、
この〈から元気〉すら懐かしいと感じる時代が、
もう既に始まっているのかもしれません。
(大瀧詠一『大瀧詠一 Writing&Talking』白夜書房、2015年、p.648)

 

大瀧詠一が亡くなったのが2013年12月30日で、
それから一年三か月ほどして、さまざまな媒体に書いていた大瀧の文章とインタビュー
をまとめた本が出版されました。
買って会社に置いてあったのを、
このたびじっくり読んでみて、
いろいろ発見することがありました。
引用した文章は、
1999年8月に出された橋幸夫のアルバム『SWIM! SWIM! SWIM!』に付されたライナーの角、
もとい、ライナーノーツから。
1曲目「ゼッケンNo.1スタートだ」に関して。
内容もさることながら、
この文章中「昨今の」の使い方が絶妙。
ここで笑ってしまいました。
ちなみにわたしは、
これまでの人生で「ぜ」を使用したことはありません。
おそらくこれからの人生でも使うことはないだろうと思います。
いや、ひょっとして、
人生の最後に、
「俺は死にそうだぜ」
と言うかもしれない。
いや、
それはぜったいにないな。

 

・ひむがしの時を見てゐるレースかな  野衾