グローブの臭い

 

いつも持ち歩いているカバンの底がほつれ加減になってきたので、
ただいま修理中。
そこで、
ウォーキングや山歩きの際に使っている革のリュック
を出してきて、
しばらくこちらを持ち歩くことにしました。
休日、
汚れを取り、
クリームを塗って革を磨いていたら、
ふっと、野球のグローブの臭いがにした。
同じ革ですから、さもありなん!
なんともなつかしく、
しばし呆然。
あれは、小学何年生だったでしょう、
はじめてちゃんとしたグローブを買ってもらいました。
想像していたよりも、けっこう重かった。
何度も臭いを嗅いだ気がします。
わたしは左投げ右打ちなので、
左用のグローブでした。
左用の、自分の、自分だけのグローブの臭い、
こころが弾んで、笑いがこみあげた。

 

・為残して宇宙の果ての嚏かな  野衾

 

感謝離

 

ふだん使っているカバンのほかに、
本の持ち運びの際、安価なトートバッグを使用していました。
軽量で折り畳みができ、
使うときだけ広げて本を入れる。
手になじむし、
持ち運びのとき、体にフィットし、体側が気にならない。
多い時は九冊も十冊も。
使っているうちに、取っ手がとれましたので、
安全ピン四個で留めたら頑丈になり、
またしばらく使いました。
とても重宝していたのですが、
この度、思い切って捨てることにしました。
取っ手の所は頑張っているけれど、
袋の底が薄くなり、
光に当てると、小さい穴が数か所開いているのが分かります。
穴が大きくなったり、
穴同士がつながって最終的に破けるまで使う
という手もないではないですが、
そこまでしなくてもと諦め、
捨てることに。
ありがとうございました。

 

・山あいの夕餉の声や濃竜胆  野衾

 

『レイ・ブライアント・トリオ』

 

1960年代の長崎を舞台にした小玉ユキさん描くところの『坂道のアポロン』
が素晴らしく、
また、
だいじなポイントポイントで、
ジャズがうまくフィーチャーされており、
ジャズが好きなわたしとしては、その点でもうれしくなりましたが、
『坂道のアポロン』をきっかけに、
このごろ馴染みのアルバムを出しては、
よく聴いています。
レイ・ブライアントの名前を冠したこのアルバムは、
1957年4月5日に録音されたもので、
わたしが生まれた年にあたっています。
生まれたのは11月、まだ母の胎のなかですが。
いまはCDで持っているこのアルバム、
かつてLPレコードでも聴いていました。
これを聴いていると、いつでも、ふわり優しく包まれるような気がします。
1曲目の「ゴールデン・イアリングス」は、
もとはペギー・リーのヒット曲だったそうで、
マレーネ・ディートリッヒ主演の同名映画の主題曲
としても知られているとのこと。
ライナーノーツを書いている久保田高司さんは、
この曲ついて、
「ジョン・ルイス的エレガンスと、
彼独自の左右両手の絶妙なバランスによって見事にジャズ化している。
そこにはあたかも貴婦人の耳に揺れる黄金の耳飾りの如き風情さえある」
と評しています。

 

・奥入瀬や弾けて水の霧深し  野衾

 

魂と物質

 

ある種の錬金術的観念がキリスト教の教義に著しく類似しているのは偶然ではなく、
伝統的関連によってもたらされた結果である。
王による象徴表現のかなりの部分は、
キリスト教の教義の源泉から生じた。
キリスト教の教義が部分的にエジプト・ヘレニズムの民間信仰
(およびアレクサンドリアのピロンのそれのようなユダヤ・ヘレニズムの哲学)
から生まれたように、
錬金術もそこに淵源をもっている。
錬金術は純キリスト教起源というわけではなく、
部分的には異教的・グノーシス主義的なものに端を発する。
(C.G.ユング[著]/池田紘一[訳]『結合の神秘 Ⅱ』人文書院、2000年、p.12)

 

卑金属を貴金属の金に変えようとする錬金術そのものは
失敗に終わりましたが、
錬金術のながい伝統と歴史の中で培われた
方法、思考は、
多方面に影響を与え、
たとえば現代化学の目覚ましい進歩は、
錬金術を抜きにしては考えられないようです。
また、
ゲーテやニュートンも、
錬金術にのめり込んでいたとのこと。
目に見えない魂の神秘を、
目に見える物質を通じて顕現させようとする人間の欲望、
業のようなものを感じます。

 

・奥入瀬や旅路の果ての霧深し  野衾

 

ジーンズメイト

 

朝、パソコンを立ち上げたら、
ジーンズメイトが渋谷から撤退すると、ニュースになっていました。
若者の賑わいが減ったことが原因のようです。
原宿も客足の戻りが鈍いのだとか。
そのニュースに目が行ったのには、理由がありまして、
朝9時過ぎになると、
ジーンズメイトから毎日メールが届くのです。
二年ぐらい前になりますか、
横浜のジーンズメイトで買い物をした際、
店員がわたしのスマホをいじり、
そのように設定してくれました。
獲得ポイントの高さに惹かれ、「いいですよ」と応えたことによるもの。
というわけで、
メールの文面を見なくても、
「あ、ジーンズメイトだ」
となるわけです。
東京商工リサーチの記事によれば、
ジーンズメイトとしては、
これからは、
郊外と地方に商機がある、との公算のようです。
利用者としていえば、
それがいいのじゃないでしょうか。

 

・暁闇のコーヒー苦し霧深し  野衾

 

『竹光侍』

 

会社が22期に入りまして、
これを機に、
社内に置いてあるじぶんの本を少し片付けていましたら、
松本大洋の『竹光侍』が出てきました。
主人公の瀬能宗一郎(せのう そういちろう)は、
天才的な刀の使い手でありますが、
おのれの中に棲む鬼を封じ込めるために、
真剣を質に入れ、
ふだんは竹光を持ち歩いています。
一巻目を読みはじめて間もなく、
生きて蠢くものたちをとことん凝視し、
その生態の核心をつかむことに異様に集中する瀬能が、
蝶になって宙を飛ぶ姿に呆れ、唖然とし、
これは傑作!
と感じました。
なぜそう感じたかといえば、
この物語は、
主人公についてもそうですが、人間の無意識に光を当てている、
と思われたからです。
無意識は、
意識できないから無意識ですが、
東洋へ来れば、阿頼耶識とよばれたり、
日本ではそれを「鬼」とよんだりするのでしょう。
画がまたすごい!
絵師・松本大洋の面目躍如。
原作は永福一成。
マンガが先にあって、小説が後のようです。

 

・日照雨(そばへ)して秋の光を湛へたり  野衾

 

ゲーテの精神

 

今や、彼はあと数年もすれば八十歳に手が届こうとしている。
しかし、探究や体験に飽きることはあるまい。
どんな方面においても、彼はとどまることを知らない。
彼は、つねに前へ、前へと進もうとする。
たえず学びに学んでいる。
そして、まさにそのことによって、
永遠にいつも変らぬ青春の人であることを示してくれるのだ。
(エッカーマン[著]/山下肇[訳]『ゲーテとの対話(下)』岩波文庫、1969年、p.80)

 

ゲーテの自宅に日参し、ともに語らい、
ゲーテから絶大な信頼を得ていたエッカーマンの言葉だけに、
印象深いものがあります。
つねに前へ、前へ、
学びの精神を学びたいと思います。

 

・日照雨(そばへ)していよよ遥かの秋の空  野衾