悲しみの鈴

 

いまは、ほんと、便利になりました。
むかし読んだ本にたしかこんなことが書いてあったな、
と思って、
うろ覚えの単語を入力すると、だいたい引っかかってきます。
松本大洋のマンガ『Sunny』を読んでいたら、
どうしても確かめたくなった言葉があったのです。
「吞気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする。」
『吾輩は猫である』に出てくる言葉でした。
高校時代に読んで以来、
再読していませんが、
うろ覚えでも覚えていたということは、
十代のわたしにとっても印象深い言葉だったのでしょう。
漱石は
「呑気と見える人々」と書いていますが、
松本大洋の『Sunny』を読むと、
悲しいのは大人に限ったことでなく、子どもでもそうであることを再認識し、
じぶんの子ども時代を振り返り、
なんとなく悲しくなって、
こころの底のほうで小さな鈴が鳴っている気がします。
松本大洋は、小学生のころ、
親と暮らせない子どもたちの施設にいた時期があったらしく、
『Sunny』は、自伝的ともいえる作品
のようですが、
生きていくことの悲しみと、
そのことへの共感からくる人への優しさに満ちた傑作
であると思います。

 

・秋茜丘より望む高速道  野衾