○を描く

 

横須賀で高校教師をしていたころ、
授業内容の補足説明のため黒板に簡単な円グラフを書くようなとき、
チョークでまず大きめの○を描く必要がありました。
○を描くとき、
△や□とちがった緊張を強いられましたが、
そのときの緊張が寝ているときに不意によみがえりました。
△□は直線なので、
さほど緊張しなくても描けた気がします。
○となると、
直線のようにいきません。
まず○の大きさをイメージし、
その中心を決め、
その中心と、黒板に記すチョークの最初の一点が
見えない糸でピーンと引き合っている状態を体で想像し(映し)つつ、
中心点から張られた糸によって常に体全体、
とくに腕と手指が安心に堕しそうになるのを避けつつ、
前へ前へと描き進める。
そのようにして描いた○は、
けっこう○く、
たのもしくもありました。

 

・ゲラ読みの日のとつぷりと秋の暮  野衾