掘り出す

 

夫から苦しめられて虐待されているある婦人が、私に、
夫がその悪い性質のために、自分を死ぬほどに苦しめることが度々あると、
話したことがあった。
しかし、自分は夫のもとでこの歳月、耐え忍んできたし、
最後まで耐え忍んでゆこうと決心していると、言っていた。
(そのうち、彼女は死というただ一つ可能な離婚によって、解放された。)
しかし、そのとき、彼女は、それにつけ加えて、
「私を苦しめる夫からも、時にはけしつぶほどの善意が流れ出ることがあるのを、
この苦しみの数年の間に発見しました」と、言った。
もちろん、
そのためには、
彼女は、ちょうど金鉱を探す人のように、
長い間探し求め、発見するまで目をこらして、
深いところまで掘り進まなければならないのであった。
そして、
彼女はさらにつけ加えて言った。
「それで私は、夫を、毎日いわば掘り出さなければならないのです。」
――この「掘り出す」という言葉を、私は忘れることができない。
……………

 

大塚野百合・加藤常昭編『愛と自由のことば 一日一章』
(日本基督教団出版局、1972年)に収録されている
スイスの著名な説教者で牧師のヴァルター・リュティのことば。
九月三十日のことばがこれでした。
いろいろに考えさせられます。
さてきょうから社業21年目です。

 

・和(なご)かるや深くなりゆく秋の空  野衾