日曜散歩

 

・餡蜜の角の昭和の甘さかな

井土ヶ谷に住んでいるときですから、
少なくとも十五年前、
おそらく二十年ほど前になろうかと思いますが、
たしかその場所に餡蜜屋があり、
一度だけふらりと入って
栗クリーム餡蜜を食べたことがありました。
餡蜜に栗と
バニラのアイスクリームが添えられています。
一月ほど前、
日曜日の散歩に出かけたときのこと、
餡蜜屋のあった付近が大掛かりな工事中で、
あらら、
あの餡蜜屋もはや無くなったかと
半ばあきらめたのですが、
よく見ると、
工事現場のすぐ隣り、
ブルーシートに追い遣られながらも、
以前のままの姿で立っていました。
それから頭に焼き付いて、
どうも気になるものですから、
近所のまるちゃんを誘い、
家人と三人で昨日餡蜜を食べに行きました。
ごくふつうの餡蜜屋さんです。
三人がいるあいだ、
わたしの隣に男性が一人来て、
難しげな資料を読み始めました。
法政大学の文字が見えました。
男性は、栗クリーム餡蜜を所望。
それから五分ほどして、
今度は白髪の女性が一人来て、
明るい窓際の席に座り、
ふつうの餡蜜をたのみ、
静かに食し、
勘定を済ませ弘明寺方面へ歩いていきました。
日曜日の密かな楽しみなのでしょう。

・サラサーテよだかの星の音楽室  野衾

ガムを噛む女子

 

・鯖の皿迷いながらも手に取らず

木曜日は横浜気功教室。
ジョイナス地下にある魚敬でお寿司をつまんだ後、
地下街を通って県民センターへ向かいます。
キーコーヒー店のおねえさんに昨日はあいさつしただけで、
豆を買いませんでした。
コーナーを曲がって左へ、すぐ右へ。
左手の女性下着売り場に首が傾かぬように気を配りつつ
さらに歩を進めると、
横浜駅西口正面へつながる階段のすぐ下はサマンサベガ。
うすいピンクのかわいいバッグが並んでいます。
白のスカートにピンクのカーディガンを羽織った女性が、
バッグを肩にかけ鏡に向かい店員と話しています。
きっとピンクが好きなのでしょう。
さてここからは中央モール。
気持ちを切り替え歩き始めるや、
向こうから、
颯爽とガムを噛み噛みミニスカートの女子が歩いてきます。
歩幅、広。
足、長。
自信ありげ。
大リーガーのように奔放にガムを噛み噛みしています。
なにか憎いのか?
なおかつ、
口元が少し開いています。
決して閉じません。
AKB48にこういう口元の娘がたしかいたな。
八重歯の娘。
ガムを噛まずに口元を開いていたら間抜けですが、
ガムを噛んでいると、
さまになります。
きっとそのことを知っているのでしょう。
かわいく見えないこともありません。
どうでもいいですけど。

写真は、ひかりちゃん提供。

・ガムを噛む女子の口元開きをり  野衾

レディ・カガ

 

・階段を上りしとしと銀座かな

JR保土ヶ谷駅構内で見つけました。
レディ・カガ。
はん!?
おがしぐねが。
誤植け?
そんなことはありません。
キャンペーンのための、
ちゃんとしたポスターなのでした。
おもしろいので、
近づいてパチリ。
レディ・ガガをふまえ(!?)、レディ・カガ。
ガガさん太っ腹だから、
こういうのOKなんでしょうね。
一応ことわったのか知らん。
というわけで、
加賀温泉郷のレディ・カガたちが
あなたをこころからお待ち申し上げます、
こういうことのようです。
春風社にもレディ・カガがいます。
武家屋敷。
ポスターのことをさっそく彼女に報告したところ、
それってどうなのと大うけしていました。

・銀座にてキョロキョロ六月の雨  野衾

一日静か

 

・干し鮎の黄緑食す二人酒

電話も鳴らず、
来客もなく、
宅配便のお兄さんが来る時間でもなく、
シーンと、
人が居るのかいないのか、
わからないぐらい静かの時があります。
きのうがまさにそうでした。
なんともいえず心地よい。
寺院のなかにいるようです。
仕事も、
自分にできることを精一杯
すればいいのだと、
垂直に
祈りたくなるような時間が降ります。
お蚕さんが桑の葉を食むように、
紙に印字された文字をゆっくりと味わい、
考え、
ぶれを直していきます。
秋田では、
雨が降らなければいけないこの時期に、
雨が降らずに困っていると、
父から電話がありました。

・紫陽花や雨に色あり寺の鐘  野衾

踵のこころ

 

・きのふ白けふ紫の垣根越し

先々週のことです。
黄金町にある映画館ジャック&ベティまで歩きました。
少し履き慣れてきた靴に中敷きを入れ。
それがよくありませんでした。
早々に靴擦れを起し、
コンビニで傷絆創膏を購入し三層に貼ってこれでよし!
と思ったのですが、
考えが甘く、
痛みはだんだん増してきます。
あのとき、
なぜ中敷きを取らなかったかが不思議です。
同行の二人に遅れをとりながら、
そろりそろり盗人のように歩きました。
こころが次第に下降し、
丹田を通過、
もはや上半身を離れ、
膝を通り越して踵のところに落ち着きました。
踵のこころは景色を楽しみません。
地面から数センチのこころは、
ひたすら塞いでいます。
家に帰って水ぶくれに針を刺して水を抜き、
ようやくこころが上に戻ってきました。
あのとき、なぜすぐに中敷きを抜かなかったのか。
せっかく買った中敷きだから、
もったいなく思ったのか。
やぶれかぶれ。
しばらく中敷きを抜いておくことにしました。

写真は、しょうこさん提供。

・曇天の下を蟻が這ってゐる  野衾

ガーリックフランス

 

・梅雨避けて一万千の踵かな

先週に引き続き、休日の散歩としゃれ込みました。
「パン当てクイズ」と題し、
財布を持たずに出て
ひもじく遊んだことをここに書きましたが、
それは、そのとおりなのですが、
ガーリックフレンチはガーリックフランスの誤りでした。
訂正してお詫びいたします。
昨日、かもめパンのお店の前を通ったとき、
家人に指摘されました。
家人いわく、
ガーリックフランスは、
パンの定番なのに、
それを間違えるということは、
ふだんいかにパンを食さないかの証拠である云々。
はい、そのとおり。
「気づいていたら、教えてくれよ。
間違えちゃったじゃないの」
「意味は通じるから、いいかと思って…」
あらためてウインドウに置かれたプレートの文字に目をやると、
たしかに、ガーリックフランスと書かれていました。
ためしに買って食べてみようかとも思いましたが、
それほどの若さもなく、
パンより米の飯が好きなわたしとしては、
確認するだけでやめて歩き出しました。

・紫陽花や絵の具を吸ひて色づけり  野衾

ポスター

 

・梅雨下りて南部鉄器の円さかな

紅葉坂を下り、
本町小学校方面へ曲がってすたすた歩いていたら、
数枚貼られたポスターの一枚に目が行きました。
選挙前ならともかく、
ふだんその類のポスターを
立ち止まってみることなどありませんが、
しばらく感心して眺めてしまいました。
だけでなく、
写真も撮りました。
だれかが遊びごころでいたずらしたのでしょうか。
目をひくために身内がやったとか。
それはないか。
いずれにしても、
わたしが立ち止まって眺めたことは事実ですし、
今まで意識したことのなかったこの方の
名前も顔もちゃんと覚えました。
この行為、
見つかればおそらく犯罪でしょう。
でも、なんだか憎めない。
何枚か同じものが貼られているうちの
一枚だけがそのようでした。
改めて見れば、
もともときれいな女の人ですが、
細工をされたことで、
眼が異様に大きくなり、
かわいさ抜群、
衆議院はもとより、
akb48の総選挙に出ても当選確実でしょう。
なんて。

ヘッダーの春風フォトストーリーは、
今日から夏バージョンです。
お楽しみください。

・六月の刃こぼれ起す過去を聴く  野衾