行為と運命

 

・霧深し瞋りも慾も霧の中

朝読んでいる山際素男編訳『マハーバーラタ』が
ようやく八巻目に入りました。
少々息切れしてきました。
五巻目まで闘いのシーンが多いなあと思っていましたが、
後半に入り、
今度は道徳の話がやたらに多い。
でも、
わたしは道徳の話が嫌いではありませんし、
子どものころ、
道徳の授業はむしろ好きでした。
いま思うに、
ほかの授業と違っておぼえることが何もなく、
机に頬杖ついて
先生の話を黙って聞いていればよかったからかなとも思います。
それはともかく、
『マハーバーラタ』ですが、
八巻目にこんな問答が出てきます。
人の行為と運命ではどちらが有力かと。
問うたのはユディシュティラ。
それに応えてビーシュマは、
昔、聖仙ヴァシシュタとブラフマー神との間で交わされた
問答を引き合いに出します。
「現世で積み重ねたカルマと、
前世で得た運命というものとは、
どちらが人の人生を形作る上でより有力か」
との聖仙ヴァシシュタの問いに、
ブラフマー神いわく、
「己れ自身の行為は土のようなものであり、運命は種子に比せられる。
土と種子とが一緒になって収穫が生れるのだ。」
神様がおっしゃるのだから、きっとそうなのでしょう。
耳の中では、スティーヴィー・ワンダーの、
JOURNEY THROUGH THE SECRET LIFE OF PLANTS が鳴っています。
八巻目は短い物語がいろいろ収められていて楽しめそうです。

・三毒の瞋恚咬み咬みかたつむり  野衾

くしゃみ

 

・ゲリラ雨疲れ肴に一人酒

ここ二ヶ月ほどでしょうか、
なんの前触れもなく、
右の鼻穴の中がむずむずしだし、
へ~、へ~、へ~っくしょんちくしょう。
風邪の引き始めのわけはなく、
経験上、
これは絶対に長い鼻毛の仕業であるなと睨み、
洗面所の鏡に向かい、
カバのごとくに眉間に皺を寄せ
鼻穴を大きく拡げてみるのですが、
敵は一向に見つかりません。
おかしいな、
絶対に鼻毛のはずなんだけどなと疑いつつも、
くしゃみの回数も減ってきて、
忘れかけていた矢先の昨日、
なにげなく
親指と人差し指を鼻穴に持ってゆき、
見えない敵をあてずっぽうに摘まんでみたら、
あ~らら、
やっぱりね。
どこに潜んでいたのか、
超特大の黒々とした鼻毛が現れました。
ふむ。
なんで見つけられなかったかな。
ティッシュに植え付け、
しばし観察。
ねじれて黒光りしています。
龍の髭みたい。
ここまで成長するには相当でしょう。
なんだか捨てるにはもったいない。
きしめんみたい。
など、
せっかくですから、いろいろ観察し、
いとおしくもなってきましたが、
とっておくのもどうかと思い、
意を決しまるめて屑籠に捨てました。
おかげでくしゃみは以後ぱったりと止みました。

・かたつむりゲリラ豪雨をやり過ごす  野衾

うねりと波頭

 

・霧深し谷の緑の静かなり

写真集『北上川』がいろいろな方に褒められ、
その度に、
担当編集者としては鼻が高いのですが、
うれしく誇らしく思うのは、
わたしの自意識で、
意識下のいのちの流れはどっぷりとたゆたって、
それとは無関係に静かの海へ流れていくようです。
あの写真集は、
わたしが病気から回復するときにつくったもので、
択びも並びも、
いのちの脈動そのままに、
すっすっと決まった気がします。
あまり考えてつくったものではありません。
写真家の橋本さんから休日電話がかかってきました。
曰く、
あらためて『北上川』を眺めていたら、
写真の並び、
とくに、
大竹昭子さんが
日経新聞に取り上げてくださった写真からつづく
五枚の写真の並びが素晴らしいと。
わたしも棚から『北上川』をとって、
さっそく開いてみました。
たしかに、素晴らしい。
そうしていたら、
不思議な感覚に襲われました。
この写真集の担当編集者はわたしだけれど、
この仕事をしたのは、わたしではない。
ふつうは頭で考え、
指で仕事をするのだけれど、
この仕事は、
いのちのうねりそのものが考え、
波頭が指となって働いた仕事なのだ。
その感じは、
『新井奥邃著作集』をつくったときの感じに似ていると思いました。

・初夏の風流れの底の香りかな  野衾

パン当てクイズ

 

・薫風をうけて葉裏も輝けり

天気がいいので、家人を誘い、
散歩に出かけることにしました。
コースを頭に描いていたわけではなく、
ただ井土ヶ谷方面へ下りて、
春日社の境内で久しぶりに気功をしようと
思い立ったのでした。
境内には大銀杏の木があります。
小さな神社ですが、
おもむきがあり、
体調の悪かった数年前、
ここでよく気功をしたものでした。
三十分ほど気功をし、
それから裏通りを歩いて、井土ヶ谷駅へ。
線路の下をくぐると横浜南郵便局。
さらにすすんで住吉神社。
参拝を終え、
来た道を戻りました。
手作りの豆腐屋さんの看板に「坂豆腐店」とあり、
変な名前だなあと思ってよく見たら、
縦書きの看板の「坂」の文字の左に「大」。
書き始めのときに忘れたか、
目をひくためにわざと横へずらしたか、
そこは定かではありませんが。
少々疲れてきました。
軽い散歩のつもりで、
二人とも財布を持たずに出てしまい、
腹が減ってもおカネがありません。
かもめパンのお店の前のベンチに座り、
しばし休憩。
次から次へお客さんが来て、
トレイ片手にパンを選んでいきます。
ベンチは、お店のウインドウに向かって置かれています。
「あの人、どのパン買うかな?」
「え!?」
「あの人さ、どれを買うと思う?」
「ん~。ガーリックフレンチかな」
「ガーリックフレンチ?」
「ほら、あそこ。……もっと左」
「ハズレたね」
「………」
「この人、どれ買うと思う?」
「ん~。カレーパンかな」
「そう?」
「少年はカレーパン好きだから」
「あ」
「ほらね」
その後も、パン当てクイズを楽しみましたが、
キリがありませんので、
適当なところで切り上げ、
最後の難関の階段を上りました。
散歩に出るときは、
少しはおカネを持って出ようと思った休日でした。

・夏惜しみそぞろ歩きのウインドウ  野衾

街を歩けば

 

・肩凝りに色を失う五月かな

本日、夜の8時から春風社にてトークイベントを行います。
神奈川新聞社の佐藤将人記者と、
漫画家の清野とおるさんをゲストにお招きします。
佐藤さんは『突撃! よこはま村の100人 ~自転車記者が行く』を、
清野さんは『東京都北区赤羽』の8巻目を上梓したばかり。
「共感」をふまえ、
「描かせてもらっている」姿勢をくずさず
取材をつづけるお二人。
さて、どんなお話が飛び出すやら。
事前にご案内したところ、
今日は、
『突撃! よこはま村の100人』で紹介された
5組の方々もご参加くださいます。
取材された側から佐藤記者の印象も伺えればと思っています。
明日は土曜日、
散歩が寺、いや、
散歩がてら夜の横浜にいらっしゃいませんか?

日時  本日20時~
場所  春風社
参加費 1000円

・野衾に襲われ頭痛肩凝りす  野衾

食べてないのに

 

・広瀬川葉音さやけき五月かな

専務イシバシと野毛の福家さんへ。
二人、いつもの定食に一品ずつプラスして頼みました。
イシバシは若竹煮を、
わたしは明石のタコブツを。
タコとイカは基本でしょう。
ほどなく若竹煮がでてきました。
「これ、美味しいからどうぞ」とイシバシ。
すすめてくれたのはありがたいのですが、
かつ、
福家さんのお料理はどれも美味しいので、
きっと美味しいだろうとは思いますが、
イシバシが若竹煮をここで食すのはおそらく初めてで、
しかも、
自身、まだ箸をつけてなく、
なのに、わたしにすすめてくれたのは、
本当にありがたいとはおもいつつ、
「美味しいとは思うけど、それはそうだけど、
あなた、まだ食べてないでしょ」
「あ!」とイシバシ。
わたしの疑問というか、指摘に気づいたらしく、
「それもそうね」
「だろ」
「そうですね。あはははは…」
「あはははは…」
二人の笑いを聞いて女将さん笑顔で、
「ずいぶん楽しそうだこと」
わたしが状況を説明すると、
「あら。そうなの。
ありがとうございます。
わたしもお客さんに美味しいお酒をすすめると、
お客さんから、
酒を飲まないのに美味しいとわかるのと
ツッコミが入ることがありますが、
ええ、
ほかのお客さんが皆さん美味しいとおっしゃいます、
と応えるようにしています」
なるほど。
そういう言い方もあるか。
イシバシもうなづいて聞いていましたが、
今回の場合は、
その言い方もすぐにはあてはまらないような。

写真は、なるちゃん提供。

・しずく落ち杜の都の青葉かな

イベントのお知らせ

 

●5月24日(木)
東京丸の内にある「丸の内カフェ」でイベントがあります。
「コトバノ惑星丸ノ内三丁目 vol.4」
文筆家の大竹昭子さんがゲストとして登場します。
大竹さんは『ことばのポトラック』の編者でもあります。
当日は、
映像「ことばのポトラック ダイジェスト」を上映。
本になる前、現場の「ことばのポトラック」がどんなものだったのか、
興味のあるかたはぜひ。
上映につづき、
詩人の柏木麻里さんとのトークも予定されています。
丸の内カフェ

 

●5月25日(金)20時~
「よこはま 本への旅」の8回目
今回のテーマは「街を歩けば人にあたる」
ゲストとして『突撃! よこはま村の100人』を上梓したばかりの、
神奈川新聞社の佐藤将人記者をお招きします。
さらに、
今回のテーマにあわせ、
漫画『東京都北区赤羽』が大ヒット中で、
シリーズ⑧巻目が出たばかりの漫画家・清野とおるさんを、
特別ゲストとしてお招きします。
「ヘンな人」のいる「ヘンな街」横浜・赤羽話で盛り上がりまショー!!
こちらは、春風社にて/参加費1000円