大衆割烹尺八

 

 青葉より光零るる三渓園

きのうの昼休み、
清野とおるさんの漫画『東京都北区赤羽』③
を読んでいたら、
赤羽時代にほぼ毎日通っていた「大衆割烹尺八」
の看板が描かれていて、
嬉しいやら、懐かしいやら。
いやはや驚きました。
十年間の幻が現実となって眼に焼きつきました。
店の名前「尺八」は「たけ」と読みます。
ご主人の川俣さんは山形県ご出身。
琴古流尺八の名人で、
たしか人に教えてもいたはずです。
以前勤めていた会社の社長の大のお気に入りで、
仕事の打ち合わせで赤羽に来られたお客様をよく案内しました。
昨年春風社から本を出した紀田順一郎さんとも、
教育者の大村はまさんとも、
「尺八」の店で、
山形名物玉コンニャクを頬張りながら、
お話させていただきました。
懐かしい。
数年前、
スナックで働いているゆいちゃんから電話があり、
「尺八」が閉店することを知りました。
出勤前のゆいちゃんは、
「尺八」の店から電話をくれたのでした。
電話を替わった「尺八」のマスターと互いの労をねぎらい、
最後にマスター曰く、
「元気だったら、またどこかで会おう」
最終日とあって客でごった返し、
ゆっくり話ができず、電話を切りました。
出版の企画で、
日本の童謡を尺八で演奏してテープに吹き込み、
本のオマケとして付けるため、
日曜日に一日かけ、
わたしと二人で収録したことがありました。
夜になってようやく終り、
へとへとになったマスターがポツリポツリと、
「く・ぢ・び・る・が・う・ご・が・ね・ぐ・な・た」
笑ってはいけない場面でしたが、
鬼瓦みたいなマスターの顔の
唇だけが別の生き物みたいに紅潮していて、
笑わずにいられませんでした。
懐かしい。

 言はねどもパッと物言ふさつきかな  野衾