蘆花日記

 

・雨抱え泣きたいような梅雨の空

英文学者の中野好夫さんが大好きで、
本人の書くものだけでなく、
中野さんが翻訳したものや監修したものまで
次つぎに買い込み、
読めるものは読み、
かなわぬものは棚に積んできましたが、
このごろ棚から下ろして読みすすめているものに、
徳冨蘆花の日記があります。
監修が中野好夫、横山春一となっています。
ただいま三巻目で、大正五年九月の項。
作家の日記というものは、
よく言われるように、
いつか活字になるかもしれないと思いながら書かれる、
ということがあるようですが、
蘆花の日記の場合、
それは本当になかっただろうと思われます。
なぜなら、
作家の性的関心、欲望、閨房の語らいなど、
赤裸々というのはこういうことかと
呆れるぐらいの記述が連なっているからです。
むかし国鉄のトイレで見たような、
へたくそな記号まで添えながら。
きのう読んだところには、
女房を押し倒していたしたら、
女房が右の足だか左の足だかを上げてするのは、
犬みたいでいやだと言ったけれど、
欲望に駆られるままにいたした、
などということが、
惜しげもなく書かれていました。
夕食後、
その箇所に遭遇し思わず吹き出してしまいました。
ちょうど家人が食器を洗いに台所に行っていたので、
また、
船村徹作品集のCDがかかっていましたから、
わたしの爆笑は、
トイレでオナラの臭いがまぎれるように、
音にまぎれて台所までは届かなかったようでした。
昼の嫌なことも、
この日記のおかげで、
かなりのところまでまぎれてしまいます。

・真空に影ひびきの心地せり  野衾