森と

 

 枝枝の笑の字なり桃の花  野衾

昔、
ジャッキー吉川とブルーコメッツという
グループ・サウンズがありまして、
「ブルー・シャトウ」という歌がヒットしました。
一九六七年に発売され、
第九回日本レコード大賞を受賞。
わたし、まだ十歳。く~。
それはともかく、
その歌の始まりが、
「森と泉にかこまれて~」でした。
その歌が頭にこびりついていて、
「森と」の字面を見ると、
つい、
あのメロディーが頭のなかをよぎります。
ところで、
泉鏡花の小説には
割と頻繁に「森と」が出てきます。
そうすると、
わたしの頭のなかを
自動的にブルー・シャトウの曲が流れていくわけですが、
鏡花先生、
「森と」と書いて
「しんと」と読ませている。
今なら「シーンと」と書くところでしょうか。
そうなると、
わたしの頭は、
ビジュアルとしては静かな森を思い浮かべつつ、
そこに、
どこからともなくブルー・シャトウの曲が聴こえてくる、
そういう事態になるわけです。
ですからこのごろは、
しょっちゅう耳のなかで、
というか頭のなかでブルー・シャトウが鳴っています。

 きのふまでけふから春となりにけり