やっかい気分

 

 コート脱ぎ巷の夜を闊歩せり

いい季節になりました。
天気もいい。
体も今のところ気がかりなところなし。
仕事も割りと順調。
桜木町の駅で電車を降り、
読みかけの文庫本を
右ページの最初の段落の区切れまで読み、
しおりを挟んで階段に向かいます。
ホームにはわたし一人、
順調に歩をすすめます。
馬鹿にするようなカラスの声もあまり気になりません。
なんとなく、うきうきします。
そのときでした。
ん?
ん、ん?
橋本さんから預かっているあの日記、
大切な日記、
洋間の戸棚の箱に戻したよな?
戻した。
戻した。
戻した?
いや、戻した。
間違いない。
戻してなかったらどうしよう。
どうしてそのことが今、頭に浮かんだのだろう。
階段を降り切るときには、
すっかり気分が変わっています。

 山笑ふ居酒屋の灯も笑ひけり  野衾