ある女性の場合

 女性の買い物に付き合うのを嫌がる世の男性が多いようだ。情報としてインプットされているだけかもしれないが。
 つい先日も、テレビで男性お笑い芸人一人と女性タレント二人がハワイで買い物という場面で、いかに女性が時間を忘れて夢中になるかを面白おかしく映し出していた。あれは、女性というものはそういうものだという作られたイメージに従っているだけかもしれないから、鵜呑みにはできない。
 わたし個人のことで言えば、女性の買い物に付き合うのはそれほど嫌いではない。好きとまでは言えないけれど、ある程度の好奇心を満足させられる。なんの好奇心かといえば、その女性がどういう種類の商品に魅せられるのかが手っ取り早くわかることはもちろん、買い物をするときの行動パターン、と言っては少々大げさだが、それが男性とはちょっとしたところでちょっとずつ違っていて面白い。
 かつて。ブランド好きの知人がいた。もちろん女性。特にどのブランドとこだわっているわけではなさそうだったが、いろいろ、わたしなど知らないブランドにも詳しく、総じてブランド好きと言ってもよさそうだった。慣れた手つきで商品を手に取り次々と見ていく。ごくごく庶民なのに、相当金持ちか、金持ちと付き合っている風情を漂わせていた。その姿を後ろから見ていて、この人は、価格はともかく、その物自体が可愛らしかったり好ましかったり自分に似合ったりを識別していると思われたから、それはそれで彼女のライフスタイルなんだろう、ブランド好きとちょっと揶揄した言い方でひとくくりにするのはどうかと思われ、少し距離を置いて眺めていた。ところが、あれはシャネルの店だったと思うが、新作のスーツ(ワンピース? 忘れた。まあ、いい。要するに、服)を彼女が見ていたとき、それこそコンマ何秒と思われる素早さで商品に付いている値札をつまんだ。値段など気にしない風だったのに、やっぱり気になっていたのかと思った。
 値段を気にするのは当然であり、ゆっくり普通に見ればいいのにと、わたしなど思うのだが、まるで電光石火のごとくにちらりと見たのにはそれなりの理由があったのだろう。分析すれば選択肢がいくつか考えられるだろうが、心理の奥をさぐっても仕方がない。そこはやはり身の程をわきまえ、とても手が出ないことを最初から知っていたということだったのかもしれない。わたしは、ただ目に留めただけで黙っていたが、いろいろな話題について、気持ちいいぐらいあけすけにズバズバ物を言う人だったから余計に、シャネルの店での一件から、なんだかいつもの彼女とは違う印象を受け、少しちぐはぐな感じがしたのと、彼女の中のおさな児のこころを見たような気がしたのを憶えている。