欽ちゃん

 テレビをつけたら欽ちゃんがでていた。旅番組で、北海道の紅葉を見にいくというもの。ゴールデンゴールズの問題もあったけれど、行く先々で出会う人々はみんな欽ちゃんが大好き。なんとなく見ていたのだが、ある場面で、さすがだなぁと唸った。
 ある店の主人は変り者、頑固者で通っている。タクシーの運転手からそう聞いた欽ちゃんは、さっそくその店へ。ドアを開けて入っていくや、店のご主人、「ああ、欽ちゃん」とは言ったが、「カメラは止めてください」と。取材は一切拒否なのだそうだ。ところがそれからの欽ちゃんの対応がすごい。「取材拒否だなんて、そんなことおっしゃらずに旦那、人と人との付き合いってことで…。ところで、何をつくっているの」と、カウンターの中へ入っていく。この辺のやりとり、前もって打ち合わせをしていたとも思えない。ご主人の断り方は静かだが断固たるもので、素人の演技であそこまでできるわけがない。そのうち近所のおばさんも加わって、「欽ちゃんがせっかく来てくれてそこまで言ってるんだから、いいじゃないか」。それでも店のご主人、ダメダメと手を横に振る。その間も、欽ちゃん、「へ〜、そうやってつくるの。へ〜。ところでこれは何?」と、実に巧み。あとへ引く姿勢を全く見せない。見ようによっては、強引。やりすぎ。無礼。ところがところが、ご主人、最後にとうとう折れて、「負けたよ」。
 となると、今度はこれも食べてみて、こっちも食べてみて、と次々に自分のつくったものを欽ちゃんに食べてもらおうと差し出す。人ってそういうものだねぇ。欽ちゃんも、頼みこんだ手前、負けじと口に入れては「洋風だね」とか「美味しいね」とか。垣根が取っ払われ、今度はまるで十年来の友人のよう。「ありがとね」と言って腹いっぱいになった欽ちゃんが店を出ていこうとすると、ご主人、欽ちゃんに握手を求めた。ご主人、ただ照れ屋なだけだったんだ。庶民派欽ちゃんの面目躍如。店のご主人がつくっているのは、クレープや大判焼き。中身は子供たちのリクエストにこたえて変ったものばかり。