あいさつ

 きのうはお客さんが三人あった。最初に気付くのはいつもわたし。なぜなら、部屋の一番奥、中央にわたしの机が入口方向に向いて置かれてあり、必然、ドアに嵌めこまれたガラスに映るシルエットが他のだれよりも目に付きやすいからだ。先頭きって「いらっしゃいませ」。すると、机に向かったり、パソコンに向かって仕事をしている者も一斉に立ち上がり、「いらっしゃいませ」。初めていらっしゃるお客さんは、これに驚かれることもあるだろうが、わたしはこれでいいと思っている。
 どこというわけではないが、訪ねていって、「ごめんください」と言っているにも関わらず、だれも顔を上げず、しばらく無言、ようやくだれかがそばにやって来たかと思うと、「どちらさまですか」などと訊かれることが往々にしてあるからだ。あれは嫌なものだ。ばつが悪い。だから、ウチに来るお客さんにそんな思いをさせたくない。いくら仕事に集中しているからといって、「ごめんください」の言葉も耳に入らぬということはない。
 お客さんが帰られるときは、「ありがとうございました」と言って、わたしが見送ることが多い。そうすると、シャチョーがそうしているのに社員が自分の仕事に没頭しているわけにはいかない。というわけで、みな立ち上がって「ありがとうございました」。
 先日いらっしゃったお客さんで、ウチのそういうあいさつの仕方を褒めてくださる方がいらっしゃった。どういう教育をされているのですか、とも。教育はしていませんと答えた。こういうことはやはり、上の者のやり方を見て真似るというのが一番だろう。