あかぎれ

 

 メールあり踏んづけちまえ霜柱

昼、太宗庵に蕎麦を食べに行こうとして坂を下りていき、
途中、角のお店をひょいと見たら、中にいた店のおねえさんが
ぺこりと頭を下げたので、わたしもお辞儀を返しました。
ときどきチョコレートを買うぐらいで、
話をしたこともないのに、覚えていてくれたのかと思ったら、
うれしくなりました。
おねえさんの手は、かさかさ乾燥していて、
あかぎれ、とまではいきませんが、なんだかかわいそうです。
クリームを塗ってはどうか(塗っている?)と思うのですが、
わたしが言うのは変でしょう。
太宗庵で鍋焼きうどんの大盛りを食べました。
鼻汁がしこたま出て、テーブルの上はティッシュの山。
勘定を払い外へでて、おねえさんのお店に向かいました。
横綱あられとアーモンドチョコレートを買いました。
五百円玉を渡しお釣りをもらったのですが、
かすかに触れたおねえさんの指先は、少しかさかさしています。
クリームを塗ったらいいのでは…
やっぱり言うのを止しました。
会社に帰ってそのことを話すと、
「商売が上手なのかもしれませんよ」とナイ2くん。
なるほど。
意識してしていることとは思えませんが、
わたしのように感じている客の意識と視線を
おねえさんが意識していることは、
じゅうぶんあり得そうです。
でも、うがった見方をすれば、
おねえさんにかぎらず誰でも、
意識と無意識の境目は難しい気もまたします。

 珪藻土黴無き霜の時積もり

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減ると空く

 

 仕事よりこころのみ急く師走かな

ひかりちゃんりなちゃんのママが、おなかが減った、
と言いました。
なので、すかさずわたしは、おなかは空く、でしょう、
と主張しました。
減るのは腹。腹が減った。
『大辞林』を調べてみました。
まず、「減る」
例文に「腹が減った」がありました。やっぱり。
つぎに、「空く」
例文に「腹が空く」がありました。ん!?
てこことは、どっちでもいい?
なんだ。ただの思い込みか。
待てよ。
「おなか」を辞書で引いてみました。
そこに、おなか【御中】①〔もと女性語〕腹、とあり、
「おなかが空く」が載っていました。
すると、どういうことになるのか。
「腹」は「減る」でも「空く」でもいいけれど、
「おなか」は、やはり「空く」ということか。
それとも、この辞書の編纂者が、
たまたま「空く」をえらんだのであって、
「減る」でもいいのか。
ふむ。

 寒き日の厠に猫の顔みたり

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りなちゃんの ほんよみ

 

 ぽるとがるぶみお空が青いねマリアンヌ

 

ぼくのほんにもでてくる りなちゃんは、

ほんをよむのが とっても じょうずです。

ゆっくり よみます。

それで、このまえ うちにあそびにきたとき、

りなちゃんに『おさるのまいにち』を よんでもらいました。

いとうひろし というひとがかいた えほんです。

みなみのしまにくらしている おさるさんたちの おはなしです。

おさるさんたちは あさ おきると、

まず おしっこをします。

そこをよむとき、

りなちゃんは すこし はずかしそうにします。

ぼくは、かえるなげのところが すきです。

めをとじて きいていると、

みなみのしまの おさるさんたちのすがたが、

めに うかんできます。

りなちゃんの ほんよみで ぼくがいちばんすきなのは、

うみがめの おじいさんの「うんうん。」というところです。

おさるの「ぼく」が はなしかけると、

うみがめのおじいさんは、「うんうん。」と いいます。

「ぼく」は、うみがめのおじいさんのあたまを なでてやります。

なでたのは りゆうがあるけど、

ここには かきません。

そのときも うみがめのおじいさんは、ただ「うんうん。」

どんなきもちかな。そうぞうしながら ききます。

りなちゃんがきたら、また よんでもらいたいです。

おしまい。

 

 冬晴れのくもをさがしてひとめぐり

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負けない!

 

 インフル菌マスクせずに手で払ふ

保土ヶ谷駅9時17分発横須賀線上り電車に、
だいたいわたしは乗ります。
日によって前後にズレますが、いちばん多いのがこの電車です。
最後尾の車両の横浜寄りのドアから乗り込みます。
なので、そのドアが停まる前に並びます。
なぜそこかといえば、横浜で電車を降りたとき、
階段のすぐ横へ出られるからです。
サラリーマンはみんな、
最寄り駅の階段やエスカレーターに近いドアを知っていて、
車内でも、その付近に陣取っているのでしょう。
先日、電車が横浜駅に到着し、ドアが開き、
わたしはホームへの第一歩を踏みだしました。
ちらと横を見ると、一瞬、どのドアから飛び出す足よりも、
わたしが早かった! ふふふ…(こころの声)
そのまま、準決勝までのボルトよろしく余裕をかまし、
トコトコトコと階段を下りていると、
右手後方から、ニワトリでもあるまいに、
コッコッコッコッと凄い勢いで足音が近づいてくるではありませんか。
足音の主を確認すべく体をひねりました。
背の高い若い女性が髪を振り乱し、なりふり構わず駆け下りてきます。
やばい! と思いました。
思うよりも先にわたしの足は素早く階段を下り始めます。
なにをっ!
ほとんど横一線です。弟には敵わなかったけれど、
おれも陸上部だったんだ!
なんてことまで頭をよぎり、もう必死。
タッタッタッタッタッタッ……
ゴール!!!
だははははは…。あははははは…。
おいらが一瞬早かった!
勝ったー! 勝ったどー!!!
空しい。なぜか、空しい。
女性はと見れば、わたしの歓喜をよそに、すでに改札口に向かっています。
もはや急ぐ必要はありません。
わたしはゆっくり京浜東北線の下りホームに向かいました。
しばらく肩で呼吸をしました。
冷静になってみると、
五十男のすることではない気もしてきました。

 冬の日のシナトラさらに軽やかに

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穴が無い!

 

 初霜や我れの湿気を吸ふて立ち

自宅の天井と壁の珪藻土塗りがようやく終りました。
終って、事前に外しておいた電気のコンセントを取り付けようとして、
上手くいかない箇所があります。
だいたいは、こちら側からネジをねじ込むための穴が
ちゃんとあるのですが、それの無い箇所があります。
穴が無ければ、金具をネジで留めることは出来ません。
上手くいかないところを後に回し、いくつか取り付けているうちに、
気づいたことがありました。
というのは、コンセントが設置されている石膏ボードの裏側は
空洞になっていて、どうも、コンセントを取り外す際に、
裏側の金具がその空洞の暗闇に落ちたものと思われます。
手を、入るだけ入れてつかもうとするのですが、
指先に当たったのも束の間、さらに深い闇にまぎれていくようです。
割り箸を三分の一のところで離れないように折ってやってもみたのですが、
とんと巧くいきません。
落ちた金具様のものだけ売っているということがあるだろうか。
あればいいなぁ…。
電気屋を頼むしかないかと諦めつつ、近くの電器店へ行き、
奥さんに状況を説明していたところ、
階段をタンタンタンと下りてきた旦那さんが、
「だいたい分かりました。落ちた金具はC型と呼ばれるものでしょう。
C型ではありませんが、サイズに関係なく取り付けられる
こういうものがあります。これで試してみてください。
それで駄目だったら伺いましょう」
1セット150円の金具を2セット買い、いそいそと家に持ち帰り、
教えられたことを忘れないうちに、
さっそくドライバーで取り付け作業にかかりました。
ななんと、ぴったりきつく取り付けられたではありませんか!
凄い! 人間の知恵は凄い!(大げさか)
こんなものが世の中にあればいいのになぁと思えば、
ちゃんとそういうものが存在しているのです。凄い!
密かな発見に、ちょっぴり驚き幸福感に浸りました。
同じような発見がもう一つありました。
それは、家具すべ~る!

 初霜や大下敷きで集めたし

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うんどう違い!?

 

 冬空や何の運動?煮たうどん!

父が小学生の頃、クラスに
いつもおどおどしている少年がいたそうです。
何かの授業のとき、先生がその少年に声を掛け、
「君は何の運動が好きだ?」と質問したそうです。
すると、おどおどした少年は立ち上がり、おどおどと、
「はい。ぼ、ぼ、ぼ、ぼくは、煮、煮、煮たうどんが好きです!」
と答えたそうです。教室は爆笑の渦。
少年、よほど腹が減っていたのでしょう。
先生一喝、「笑うな!」
父から何度かそのエピソードを聞かされました。
父は、話すたび赤い顔をさらに赤くして笑います。
よほど可笑しかったのでしょう。
顔全体が「笑」という字になっている父の姿が目に浮かびます。
どうしてこのことを思い出したのかと反省したら、
きのうの昼、鍋焼きうどん大盛りを食べたからだ
ということに気が付きました。
おどおどした少年と同じく、
わたしも似たうどん、いや、煮たうどんが好きです。

 アスファルト濡れて千切れし冬の月

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風船

 

 保土ヶ谷駅まんまる冬の月見蕎麦

また夢を見ました。
編集長ナイ2が「この本、凄いですよ」
テーブルの上に大判の本があって、
どうもその本のことのようです。
開いてみました。
すると、どのページにもいろんな風船が描かれています。
少し透けているような、手で触れるような、
実にリアルな風船です。
ナイ2君は、にこにこしながら黙っています。
不思議にリアルな風船だなあと見ているうちに、
本の縁(へり)から食み出して、浮き出て見えます。
そうか。浮き出る絵本なんだ!
3Dのメガネで見ているような感じです。
つい手を伸ばして触ってみたくなります。
それで、手を伸ばし、つかむようにしました。
つかもうとすると、つかむことはできなくて、
そこは3Dメガネで見るのといっしょですが、
何度か手のひらを握ったり開いたりしているうちに、
それまで描かれた絵と見えていた風船の感触が
たしかに指に伝わってきました。
思わず、風船を放ってしまいました。
風船はふわりふわりと、床にバウンドしています。
へー! これは凄い!
ナイ2君の顔を見ると、「でしょ」
そうか。このことだったんだ。
本のなかから次々風船が飛び出して、
あちこちシャボン玉のようにバウンドしています。
わたしは、この風船たちを本に戻すにはどうするんだろう、
などと要らぬことを考えていました。

 駅蕎麦のつゆを残して冬の月

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