夏
下闇に入りて鬱の気癒しけり
今月帰省した折、ぷらぷらと散歩に出かけ、
子どもの頃、泳ぎに行っていた川へ下りてみました。
夏休みになると、
部落の親が交代で連れていってくれました。
井内部落のほうから坊塚方面へ蛇行し、
さらに蛇のようにS字を描いたところの淵がその場所です。
泳ぎのできないわたしと弟は、
緑色の深いところへは近寄らず、
いつも浅瀬でちゃぷちゃぷ遊んでいました。
弟はその後、不得意を克服し、
すっかり泳げるようになりましたが、
わたしは泳げるとは、見栄を張っても言えません。
それがために、
バリの海で危うく溺れそうになったこともあります。
学校で井伏鱒二の「山椒魚」を習ったとき、
なぜか夏休みのあの緑の淵の陰にそれがいて、
ときどき大きなあくびをしては、
ぎろりとこちらを睨んでいるような気がしたものです。
山椒魚は悲しんだ。
そしてその場所は、
以前どこかに書いたことがあったように思いますが、
初めて女の裸を見た場所でもありました。
四十年以上経っているのに、
そのシーンがありありと目に浮かびます。
川べりは今、コンクリートで固められていますが、
足下を見ながら歩いていくと、
幅三十センチの上に蛇がとぐろを巻いていました。
あれはシマヘビで、蝮とちがい、毒をもっていません。
ふるさとの蜜を追ひかけ夏の雲