風船

 

 保土ヶ谷駅まんまる冬の月見蕎麦

また夢を見ました。
編集長ナイ2が「この本、凄いですよ」
テーブルの上に大判の本があって、
どうもその本のことのようです。
開いてみました。
すると、どのページにもいろんな風船が描かれています。
少し透けているような、手で触れるような、
実にリアルな風船です。
ナイ2君は、にこにこしながら黙っています。
不思議にリアルな風船だなあと見ているうちに、
本の縁(へり)から食み出して、浮き出て見えます。
そうか。浮き出る絵本なんだ!
3Dのメガネで見ているような感じです。
つい手を伸ばして触ってみたくなります。
それで、手を伸ばし、つかむようにしました。
つかもうとすると、つかむことはできなくて、
そこは3Dメガネで見るのといっしょですが、
何度か手のひらを握ったり開いたりしているうちに、
それまで描かれた絵と見えていた風船の感触が
たしかに指に伝わってきました。
思わず、風船を放ってしまいました。
風船はふわりふわりと、床にバウンドしています。
へー! これは凄い!
ナイ2君の顔を見ると、「でしょ」
そうか。このことだったんだ。
本のなかから次々風船が飛び出して、
あちこちシャボン玉のようにバウンドしています。
わたしは、この風船たちを本に戻すにはどうするんだろう、
などと要らぬことを考えていました。

 駅蕎麦のつゆを残して冬の月

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バッグが無い!

 

 基督の我を立たしむ冬となり

夢を見ました。
仕事の打ち合わせにでも行くのか、
専務イシバシ、武家屋敷と三人で出かけました。
バス停で待っていると、程なくマイクロバスがやって来ました。
このごろはバスに乗る人が減ったのか、
路線バスもマイクロバスが多くなりました。
蛇腹式のドアが開いて、順に乗り込みました。
席は全部塞がっています。
わたしは吊り革に捕まりました。
イシバシは、一人がけの椅子の背に捕まっています。
武家屋敷は背伸びして吊り革に。
二人を相手に、わたしは今日の流れについて
もう一度念押しするようです。
少々テンションが上がってきました。
仕事を決めなければなりません。
外の景色を見、気分は上々、うきうき、うっきーきー。
その時でした。
あれ!?
バッグが見当たりません。無い! 無い!
棚の上にも足元にも、どこを探してもありません。
だんだん焦ってきました。
すべての棚の上、乗客たちの足元、つぶさに眺めましたが、
ありません。出てきません。
イシバシも武家屋敷も探してくれましたが、やっぱり出てきません。
バスは発車してからまだ一度も停留所に停まっていませんから、
だれかがバッグを持って降りたということは考えられません。
客たちと目が合いました。よく見ると、若い者は一人もなく、
老人ばかりです。
皺のせいで見分けが付きませんが、わたしを、
皆わらっているようにも見えます。
最後部座席に座っている男が、
「こんなようなバッグですか?」と、声を掛けてきました。
「ええ、まぁ…」と、こころここにあらずの返事をしましたが、
わたしのバッグとは似ても似つきません。
乗り合わせたこの老人たちの悪意の総体が
わたしのバッグを隠してしまったのだと確信しました。
能天気にウキウキしたことが彼らの恨みを買ってしまったのだ。
バスを降りたらすぐに電話して、カードを止めなければなりません。
一日が急に暗雲垂れ込めたものに変貌していくようでした。

 タコホタテ海の底よりおでんかな

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バランスチェアと百人一首

 

 大鍋にぷかりぷかりのおでんかな

ノルウェーが生んだ傑作椅子バランスチェアを、
近所のひかりちゃん、りなちゃんもつかっています。
「も」というのは、春風社の面々が毎日つかっているからです。
ひかりちゃんは小学六年生。
ことばに興味があるらしく、以前寅さんの
啖呵売(たんかばい)のせりふをおしえたら、
あっという間に覚えてしまって、
学校で友達といっしょに唱和して楽しんだことがありました。
ひかりちゃんは川柳も上手です。
このごろは百人一首にハマっていて、
先日、あるお寺で百人一首の大会がありました。
パパがクルマで連れて行ってくれたそうです。
二百人ちかい参加があったのだとか。
真剣に札を見つめて背中を丸くしている中に、
ただ一人、背筋をピンと伸ばして札に向かう少女がいます。
ひかりちゃんです。
その話を後から聞いてうれしく、また、愉しくなりました。
バランスチェアの効果覿面!
いま育ち盛りのひかりちゃんが、背丈とともに、
内面をどんな風に育てていくのかたのしみです。
自分を育てるのは、だれでもない、自分ですから。

 お寿司よりこころほっこりおでんかな

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珪藻土

 

 おでんの具なにか忘れた竹輪かな

天井・壁が呼吸することで快適湿度の室内空間を保ち、
結露を防いで黴やダニを抑え、脱臭効果があり、
夏は涼しく冬あたたかく、耐火性にも優れ、
音の反響もおさえるてくれるという(ふ~)、
いい事づくめの珪藻土を、ここ二週間ほど塗っています。
塗っている、と言っても、
実際に塗っているのは家人と近所のまるちゅあんで、
わたしは専ら下準備のタッカー留めとシーラー(糊)塗りです。
一度洋間の天井を塗ったのですが、
それなり塗れたかなと思ったのに、翌朝見たら、
でこぼこぼこぼこがたがたで、がっかりしました。
が、それとは別に、その天井塗りで密かに
愉しいと思ったことが一つだけありました。
下手なので、練った珪藻土を乗せている板から珪藻土がボタッと
落ちます。しまった! と、最初は思うのですが、
さらにボタッ! つづいて、ボタッ!
ボタッ! ボタッ! ボタッ!
しまいには、もう次から次と、
ボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタボタ。
降り始めた雨が勢いを増すように、
際限がありません。
傘を持たずに雨に当たり、最初は雨を避ける具合ですが、
そのうちどうでもよくなり、
しているうちに、むしろ雨に濡れている自分を
愉しむようになったものです。まさに、あんな感じ。
そんな体験を味わったのはよかった(?)のですが、
あとの床は、最早たいへんなことになっていたのでした。

 冬の日を吸ふて吐くや珪藻土

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帙函

 

 冬晴れのきみはブラジルぼくはモカ

和紙を和綴じにして作った和本などを保護するために包む覆いのことを、
帙(ちつ)と言ったり帙函(ちつばこ)と言ったりします。
厚紙を芯(しん)にし、丈夫な布や紙を貼りつけて作ります。
箱の状態からツメを外すと、
紙で作った糊付けされていないサイコロが
パタパタパタと広がるように四方に展きます。
なので「箱」よりも「函」のほうが感じがでます。
今はあまり見られなくなりましたが、
このたび縁あって帙函入りの本を作ることになりました。
先日、印刷会社の人が見本を持ってきてくれました。
わたしは自分の席にいたのですが、
編集担当の武家屋敷、その帙函を見た瞬間、
ニコッと微笑みました。
わたしまで嬉しくなりました。
武家屋敷は、武家屋敷だけに和のこころを持ち、
和装本、帙函が好きなのだなと納得した次第。
本を作ることはますます
贅沢なあそびになっていくような気がします。

 それぞれの生死冬日のいのちかな

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遠目

 

 塩むすび疲れをほぐすおでんかな

このごろの出勤時のたのしみは、紅葉坂ですれ違う女子。
とにかくスタイルが抜群で、
すらっとした脚の綺麗さはモデル並み。
というか、本当に、モデルさんかもしれません。
坂の上から彼女が下りてくると、
あまりのスタイルの好さに見とれてしまいます。
横断歩道の真ん中で立ち止まりそうになったことも
一度や二度ではありません。
ルパン三世にでてくる峰不二子は彼女がモデルなんだよ、
といっても、さほど疑われないのではと思うぐらいです。
顔も可愛いです。造作も悪くありません。
ただ一つ惜しいのは、目。目と目の間。
目が離れています。
二つの目が磁石のN極とN極が反発するように、
顔の縁(へり)に向かって勢いづいています。←  →
本人も気にしているのか、
アイライン、アイシャドウが凄いことになっています。
塗りたくっています。
外に向かう力を、
なんとか力でねじ伏せようとするかの如くですが、
目の放つ斥力には抗しがたいものがあるようで、
黒々とした目の周りが、心なしかちょっと悲しげでもあります。
でも、透けて見えるそのこころが健気な感じがし、
ますます可愛いなあ、とも思うオヤジであります。

 光太郎の詩に燦々と冬の午後

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夢で放つ

 

 股引の膝くたびれる師走かな

こんな夢を見ました。
今住んでいるマンションから出て左へ歩くと、
広いゆったりしたS字の上り坂になります。
木々は秋の気配を漂わせています。
深く息を吸い、吐きながら、ゆっくり上っていきます。
腹がぐるぐる鳴り出しました。
向こうから五十がらみの男性と二十代でしょうか、
一人の青年が歩いてきました。
すれ違って程なく、
ぐるぐるは、あるはっきりした様態をなし、
わたしはぐっと腹に力を入れ、思いっきりそれを放ちました。
すっきり感と同時に、おでんの玉子を割ったときのような
強烈な臭いが鼻を襲いました。
と、
それまで気が付かなかったのですが、
不意に、S字カーブを曲がって今度は親子でしょうか、
女性が二人近づいてきました。
しまったーーー!!
でも、もはやどうすることもできません。
わたしは何食わぬ顔で二人とすれ違い、
さらに坂道を上っていきます。
背後から声が聞こえてきました。
ママー。なんか臭くない?
そうか。親子であったのか。
あら、やだ。ほんとね。下水の臭いかしら?
あら、やだって、あんた…。下水じゃねーし。みたいな。
親子と思しき女性二人が臭いの元を、
先を歩いていく二人の男のどちらかと勘違いする可能性も、
無きにしも非ずか、なんてことを思いながら、
わたしは頂上を目指して歩いていくようなのです。

 畳の目に運を重ねて冬の雨

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