秋分

 

・腰周りちんとんしやんの仲居かな

東に面した窓を開け、
西に面した玄関のドアを開けると、
風が通って気持ちよく、
ああいい気持ち、
いい風だ、
とつい口をついてでます。
風が家のご主人で、
住まいする人間が
避けて眺めて暮らしています。
酷暑の日が長く続いたので、
とくに涼風が心地よく
新鮮に感じられるのかもしれません。
保土ヶ谷駅頭ではおはぎを売っていました。

・秋深し和服で縛る乳房かな  野衾

万歳

 

・今正に眞有ありと充ち來る

秋田に電話。
母が電話に出、
家の田んぼの収穫が終ったとのこと。
大雨で土がぬかるみ、
台風で稲穂がなぎ倒され、
それはそれは大変な骨折りであったそうです。
母は腰が痛く、
頑丈な父は齢八十過ぎ。
いかに機械を使ってやるからといっても、
二人では到底無理。
近くに住む父の弟が連日手伝い、
父の妹夫婦が手伝い、
わたしの弟も手伝いしてようやく終了。
最終は父と母と叔父の三人。
三人で万歳をしたのだとか。
農家の苦労は、
やったものでなければ分かりません。
わたしは子どものころ、
ほんのちょっと
手伝ったというのも恥ずかしいぐらいなもので、
本当の苦労は分かりません。
父も母も、
サラリーマンに叶わないと、
よく口にしていたものです。
苦労が身に染みているのでしょう。
筋肉が攣るとオロナミンCを飲む父は、
ひどいときは四本で効かず、
五本飲んだとか。
最終日はそこまでひどくなく、
二本。
考えどころです。

・波の先幽霊船の滑り行く  野衾

一生懸命機械

 

・鏡花來舟津屋の前女性あり

家にVHSビデオのソフトが相当ありまして、
捨てて惜しくないものもありますが、
残してたまには観たいものもあり、
試しに
すぐそばにあったものを再生してみたところ、
うんともすんとも言いません。
どうやらビデオデッキが壊れてしまったようです。
ネットで調べたところ、
中古で安く手に入ることが分かりましたので、
さっそく注文。
数日して大ぶりのダンボールが会社に届きました。
会社帰りにタクシーで家まで運び、
コードを接続して
ナスターシャ・キンスキー主演映画のビデオテープを
機械の口に挿入。
再生ボタンを押すも、
うんともすんとも言わず。
へんなガガガー、チリチリチリと、
苦しげな音が聞こえてきます。
ははー。
テープがイカレちまったな。
取り出しボタンを押したら、
グヮシャッ!! ボーン!
青天の霹靂! そして爆笑!
テープが50センチメートルちかく飛びました。
まさしく飛んだ!
呆気にとられ、また大爆笑。
機械に笑わせてもらったのは人生初。
まるで
挿入されたビデオテープが口に合わないかのごとく、
グヮシャッ!! ボーン!
中古の機械ですから、
売りに出す前に直したかして、
そのときに取り出しボタンのバネを強くしたのでしょうか。
まあ、機械音痴のわたしには分かりませんが。
それにしても面白い。
だんだんこいつが愛しく思えてきた。
なんだか一生懸命じゃないか。
今度は
ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』を挿入。
聴き覚えのある音楽が流れ、
これはちゃんと再生されました。
再生が確認できたので、
停止ボタンを押し、
テープを巻き戻してから取り出しボタンを押す。
グヮシャッ!! ボーン!
口に合う合わない好き嫌いにかかわらず、
一生懸命機械なのでした。

・しつぽりと女将桑名の煮蛤  野衾

 

桑名といえば

 

・弥次喜多や水鳥交して長良川

桑名といえば焼き蛤。
その手は桑名の焼き蛤ていう。
泉鏡花ゆかりの桑名を
家人と義母、
家人の妹、
姪っ子二人もまじえ訪ねることになり、
しばらく前から
計画を立てていたところ、
高蔵寺在住の義母が
何気なくファイルを整理しているうちに
桑名にある
とある料理店の新聞切り抜きを発見。
ハッと驚いて見たところ、
先年他界した義父が友人と訪れ
舌鼓を打ち、
いずれ義母を誘って再訪しようとのこころから
パンフレットと切り抜きを
取っておいたもののようです。
今回訪れたのはその魚重楼。
そういえば生前義父が、
その手は桑名の焼き蛤と口にし
自ら破顔一笑していたのをよく覚えています。
此度も差し向かいに義父がいて、
その手は桑名と笑っている。
台風接近で大荒れの外を閉ざし、
室内には団欒の気が充ちておりました。

・樹は千年石は万年野分かな  野衾

桑名

 

・追ひかけて牙剥く波の白さかな

泉鏡花ゆかりの舟津屋を訪ねましたが、
結婚式の予約が入っているとかで、
中までは見せてもらえませんでした。
が、
美人の店の方が立ち話ながら
ていねいに説明してくださり、
鏡花ファンとしては、
へえここがねぇ。
と思って見たれば、
たしかになんだか風情があり、
万太郎直筆のかすれ文字の石碑もそれなり。
舟津屋は、
鏡花『歌行灯』中、湊屋の名前で登場します。
むかしは大塚本陣跡だったそうです。
そう聞けば、
弥次喜多さんがしのばれて。
お釈迦さんのことなら
ルンビニ、ブッダガヤ、サールナート、クシナガラでしょうけれど。
弥次喜多さんなら桑名を絶対外せない。
どっこいその手は桑名のと。
台風接近で波が三角立ち、
四角な裏庭から船出したものらしい
いにしへの人の心を重ねたり。
河岸を変え、
蛤料理の魚重楼へ。
こちらも創業は明治に遡る。
焼き蛤を供してくれた姐さんの
腰の張りへ目が行ったのは
弥次喜多の霊の仕業か。
いやこれは
こちらの単なる助平ごころのなせる業。
どうやらちと酔ひも回つてきたぜい。

・秋連れて東海道を北上す  野衾

カピ子

 

・秋風や実業あるを楽しめり

NHKのアナウンサー守本奈実さんの愛称はカピ子。
カピバラに顔が似ているからだとか。
そう思って見ると、
ふむ。
似てないこともないか。
わたしは勝手に奈実ちゃんと呼んでいて、
「首都圏ニュース845」今週は奈実ちゃん担当です。
奈実ちゃん、
写真週刊誌フライデーに熱愛報道されたようです。
相手はNHKのディレクターだとか。
熱愛報道されたのに、
大騒ぎされることなく、
「カピ子も恋愛するのか」とか、
「カピ子も年ごろだからそっと見守ってやろうよ」とか、
周囲から割と好意的に見られているようです。
そのせいか分かりませんが、
画面で見る奈実ちゃん、
なんだか今週うれしそう。
お!
原稿に目を落としたとき、
たしかにカピバラさんに見えた!
それから、
奈実ちゃんのまばたきは、ゆっくりだ。
これはわたしの発見。

・虚無でなく実有ありと虫の鳴く  野衾

ラッキー!

 

・光瀾に洗ひ流さる秋となる

信号が青に変ったのに、
ふと思い立ち
横断歩道を渡らずに、
回れ右して建物の階段を上りました。
このとき午後六時四二分。
階段を上りきり、
恐る恐るドアを開けたら、
いつものソファに客がが一人もいない。
ラッキー!
ドアを大きく開け一歩中へはいると、
リクライニング状態の客が一人、
顔を剃られてあと数分でおしまいのようでした。
ラッキー!
愚痴をこぼしたくなることもありましたから、
ラッキーが続くことはうれしく、
厄落としになります。
前の人が代金を払って退室。
「どうぞー」
「はい。いつものようにカットだけお願いします」
「はい。わかりました」
……………
「はーい。お疲れ様でしたー」
一二〇〇円を払ってドアを開け階段を下り、
さっきの交差点に向かいます。
信号はまだ青にならず。
このとき午後六時五八分四〇秒。

・良寛の筆空中に秋の風  野衾