桑名

 

・追ひかけて牙剥く波の白さかな

泉鏡花ゆかりの舟津屋を訪ねましたが、
結婚式の予約が入っているとかで、
中までは見せてもらえませんでした。
が、
美人の店の方が立ち話ながら
ていねいに説明してくださり、
鏡花ファンとしては、
へえここがねぇ。
と思って見たれば、
たしかになんだか風情があり、
万太郎直筆のかすれ文字の石碑もそれなり。
舟津屋は、
鏡花『歌行灯』中、湊屋の名前で登場します。
むかしは大塚本陣跡だったそうです。
そう聞けば、
弥次喜多さんがしのばれて。
お釈迦さんのことなら
ルンビニ、ブッダガヤ、サールナート、クシナガラでしょうけれど。
弥次喜多さんなら桑名を絶対外せない。
どっこいその手は桑名のと。
台風接近で波が三角立ち、
四角な裏庭から船出したものらしい
いにしへの人の心を重ねたり。
河岸を変え、
蛤料理の魚重楼へ。
こちらも創業は明治に遡る。
焼き蛤を供してくれた姐さんの
腰の張りへ目が行ったのは
弥次喜多の霊の仕業か。
いやこれは
こちらの単なる助平ごころのなせる業。
どうやらちと酔ひも回つてきたぜい。

・秋連れて東海道を北上す  野衾