一生懸命機械

 

・鏡花來舟津屋の前女性あり

家にVHSビデオのソフトが相当ありまして、
捨てて惜しくないものもありますが、
残してたまには観たいものもあり、
試しに
すぐそばにあったものを再生してみたところ、
うんともすんとも言いません。
どうやらビデオデッキが壊れてしまったようです。
ネットで調べたところ、
中古で安く手に入ることが分かりましたので、
さっそく注文。
数日して大ぶりのダンボールが会社に届きました。
会社帰りにタクシーで家まで運び、
コードを接続して
ナスターシャ・キンスキー主演映画のビデオテープを
機械の口に挿入。
再生ボタンを押すも、
うんともすんとも言わず。
へんなガガガー、チリチリチリと、
苦しげな音が聞こえてきます。
ははー。
テープがイカレちまったな。
取り出しボタンを押したら、
グヮシャッ!! ボーン!
青天の霹靂! そして爆笑!
テープが50センチメートルちかく飛びました。
まさしく飛んだ!
呆気にとられ、また大爆笑。
機械に笑わせてもらったのは人生初。
まるで
挿入されたビデオテープが口に合わないかのごとく、
グヮシャッ!! ボーン!
中古の機械ですから、
売りに出す前に直したかして、
そのときに取り出しボタンのバネを強くしたのでしょうか。
まあ、機械音痴のわたしには分かりませんが。
それにしても面白い。
だんだんこいつが愛しく思えてきた。
なんだか一生懸命じゃないか。
今度は
ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』を挿入。
聴き覚えのある音楽が流れ、
これはちゃんと再生されました。
再生が確認できたので、
停止ボタンを押し、
テープを巻き戻してから取り出しボタンを押す。
グヮシャッ!! ボーン!
口に合う合わない好き嫌いにかかわらず、
一生懸命機械なのでした。

・しつぽりと女将桑名の煮蛤  野衾