祖母の兄の子、祖母にとっては甥にあたる人にKさんという建築士がいました。
土崎に住んでいましたが、
実家である祖母の兄の家に訪ねてきた折など、
わが家にも立ち寄ることがありました。
あるとき、Kさんは娘のM子さんを伴い、わが家を訪ねてきました。
対応したのが父だったか祖父だったか、
忘れてしまいましたが、
なにかおとなのうちあわせがあったのでしょう。
M子さんをつれ二階で遊んでいなさい、みたいなことを言われた。
M子さんはわたしよりひとつ上だったと思いますが、
ずいぶんおとなのふんいきがしたし、
なにより、
土崎は、わたしにとって都会でしたから、
都会からやって来た「おんなの人」だったわけです。
二階に上がるまでは問題なかったのですが、
部屋に入っても、
なにをどう話していいのかが分かりません。
クラスの女子となら話せても、
都会の「おんなの人」に話す話題など持ち合わせていませんでしたから。
なんとも間がもたないので、
「コーヒー、飲みますか?」と、かっこう付けた。
コーヒーといってもインスタントコーヒーなわけですが、
なにせ都会の「おんなの人」なので、
コーヒーとか、そういうの飲むんじゃないかと、考えたわけでした。
お湯を沸かし、
家にあったコーヒーカップ(あったのが不思議)と粉状のミルク
(クリープでなくたしかブライト)
を用意し、お盆を持って二階に上がりました。
コーヒーカップにコーヒーの粉を入れ、薬缶からお湯を注いだまではよかった。
スプーンでかき混ぜ、それからブライト。
ん!?
ん!?
と、溶けない。あせって、スプーンでかき混ぜるも、
ブライトがこまかく球になって、ぶつぶつと、
ビジュアルがへんな気持ち悪い飲み物になってしまった。
そうか。お湯がぬるかったのか。
時すでに遅し!
ああ、それからのことは記憶から飛んでしまっています。
きっと恥ずかしさで顔が真っ赤だったろうなぁ。
M子さん、あのときどうしたのかな?
気をつかって、すこしはカップに口をつけてくれたのか?
すっからかんと忘却のかなた。
忘却とは忘れ去ることなり。
ほんとにトホホな体験でした。
いまだから笑えるけど、身に付かぬ恰好は付けるものではないと、
つくづく思いましたよ。
M子さん、いまどうしてるかなぁ。
・訪ぬれば大地の微笑七変化 野衾