さまざまのこと 29
祖母の兄の子、祖母にとっては甥にあたる人にKさんという建築士がいました。
土崎に住んでいましたが、
実家である祖母の兄の家に訪ねてきた折など、
わが家にも立ち寄ることがありました。
あるとき、Kさんは娘のM子さんを伴い、わが家を訪ねてきました。
対応したのが父だったか祖父だったか、
忘れてしまいましたが、
なにかおとなのうちあわせがあったのでしょう。
M子さんをつれ二階で遊んでいなさい、みたいなことを言われた。
M子さんはわたしよりひとつ上だったと思いますが、
ずいぶんおとなのふんいきがしたし、
なにより、
土崎は、わたしにとって都会でしたから、
都会からやって来た「おんなの人」だったわけです。
二階に上がるまでは問題なかったのですが、
部屋に入っても、
なにをどう話していいのかが分かりません。
クラスの女子となら話せても、
都会の「おんなの人」に話す話題など持ち合わせていませんでしたから。
なんとも間がもたないので、
「コーヒー、飲みますか?」と、かっこう付けた。
コーヒーといってもインスタントコーヒーなわけですが、
なにせ都会の「おんなの人」なので、
コーヒーとか、そういうの飲むんじゃないかと、考えたわけでした。
お湯を沸かし、
家にあったコーヒーカップ(あったのが不思議)と粉状のミルク
(クリープでなくたしかブライト)
を用意し、お盆を持って二階に上がりました。
コーヒーカップにコーヒーの粉を入れ、薬缶からお湯を注いだまではよかった。
スプーンでかき混ぜ、それからブライト。
ん!?
ん!?
と、溶けない。あせって、スプーンでかき混ぜるも、
ブライトがこまかく球になって、ぶつぶつと、
ビジュアルがへんな気持ち悪い飲み物になってしまった。
そうか。お湯がぬるかったのか。
時すでに遅し!
ああ、それからのことは記憶から飛んでしまっています。
きっと恥ずかしさで顔が真っ赤だったろうなぁ。
M子さん、あのときどうしたのかな?
気をつかって、すこしはカップに口をつけてくれたのか?
すっからかんと忘却のかなた。
忘却とは忘れ去ることなり。
ほんとにトホホな体験でした。
いまだから笑えるけど、身に付かぬ恰好は付けるものではないと、
つくづく思いましたよ。
M子さん、いまどうしてるかなぁ。
・訪ぬれば大地の微笑七変化 野衾