谷川俊太郎さんがお亡くなりになったとニュースで知りました。
わたしの父と同じ昭和六年生まれで、
父は八月に93になりましたけど、
谷川さんは十二月の誕生日前でしたので、
享年92。
本で知っていただけの谷川さんとのつきあいは、
2002年に上梓した『インド・まるごと多聞典』がきっかけでした。
推薦文を頂戴しました。
それから弊社の『春風俱楽部』『春風目録新聞』にもご投稿いただきました。
忘れられないのは、
仕事の打ち合わせで佐々木幹郎さんといっしょに
来社された折、
拙宅で手づくりのラーメンをごちそうしたこと。
麺は山形から取り寄せた丸山製麺をつかっていました。
おふたりにラーメンを供したところ、
さいしょはだまって召し上がっておられた。
佐々木さんが、
「ラーメン、どうですか?」と谷川さんに問いかけられた。
谷川さん「おいしい」。
佐々木さんほほ笑まれ「おいしいのはわかるけど、詩人なんだから、
ほかになんかあるでしょ」。
佐々木さんと谷川さんは仲がいい。
そこで谷川さん、
「うん。ふだんあまりラーメンを食べないから、
ほかと比較して、このラーメンの特徴がどういうふうか、
言うことができない。佐々木さんだったら、どう言うの?」
そう訊かれた佐々木さん、
「スープが寝ている」
「寝ている?」
「ラーメンを食べると、たとえばこれは昆布出汁がきいている、
煮干しの出汁がきいている、あご出汁、かつお出汁、
出汁につかっているものの味が立っているのが多いけれど、
このラーメンは、
ぜんたいがひとつにまとまっていてまろやか」
というような感想を、たしかおっしゃった。
すると「さすが詩人!」
と谷川さん。
佐々木さんも谷川さんもわたしも、そこにいた社員も笑いに包まれた。
詩人というのは、
生きたことばを話す人なんだと知った瞬間でした。
忘れられません。
谷川さんのご冥福をお祈りします。
・小春日や記憶の底にあと少し 野衾