岩波文庫の『ウィルヘルム・マイステルの遍歴時代』は上、中、下、
の三冊ですが、
中巻と下巻の終りに箴言集ともいうべき語群があります。
一行から数行の、
人生をおくるにあたってのみじかい教訓
が記されています。
箴言の「箴」は石針。
小説と一見関係なさそうですが、
訳者の関泰佑(せきたいすけ)さんにいわせると、
「本文と箴言集とが相照応して、相互の理解を深め助けあう点の多いこと
を見落してはならないだろう」
ということになる。
主人公のウィルヘルムが人生途上の遍歴をへて、
体験し、学んだことがことばになっている
と読めるものもたしかにあるけれど、
どうしてこういう教訓がでてくるのだろうと、
いぶかしく思うのも中にはある。
小説の主人公に仮託し、
作者であるゲーテさんが本人の人生で習得したことをことばにしている
んだろうな。
そう感じられるものも少なくない。
それはともかく。
中巻231頁にこんなことばがありました。
君が誰と交際しているかを私に言いたまえ。そうすれば私は、
君の人となりを君に言おう。
君が現在どういう事に従事しているかを知れば、
君が将来どういうものになるかが私にはわかる。
は~、そうですか。なるほど。
ん!? まてよ。
このことば、なんかどこかで読んだことあるぞ。
そうだ。
ブリア=サヴァランさんの『美味礼讃』。
君が何を食べているのかを私に言いたまえ。そうすれば私は、
君がどのような人であるかを、君に言おう。
ん~。似ている。
交際している友だちを食べ物に換えれば、同じような物言い。
ゲーテさんとサヴァランさんは同時代の人。
『遍歴時代』は1821年に初稿刊行。その後、全面的に改稿し1829年に出版。
『美味礼讃』は1825年出版。
・天高し見えぬ天狗の高笑ひ 野衾