矢の病

 

古今和歌集893番は、

 

かぞふれば とまらぬものを としと言ひて 今年はいたく 老いぞしにける

 

『古今和歌集全評釈(下)』にある片桐洋一さんの通釈は、

 

数えてみると、止まらずに過ぎ去るものを年と言って、
どうしようもなく「疾し(速い)」と思われるものであって、
今年は、ひどく年をとってしまったことであるよ。

 

つまり、疾《と》く(=速く)過ぎ去るのが年、
年は疾し、ということになります。
よみ人知らずの歌ですが、
千年以上まえの昔から、
そういうとらえ方をしてきたのだと、しみじみ味わい深く思います。
光陰矢の如しということばもあるけれど、
「疾」という字のなかに「矢」があり、
いわば矢の病《やまい》が「疾」ということになり、
てことは、
年月は、また老いは、
あっという間に飛び去る矢の病であるよなぁ、
とも思えてきます。

 

・よく見れば皃の字に似る飛蝗かな  野衾