言葉の世界は「足し算」

 

2012年から行ってきた対談、鼎談、座談を編集し直し、
一冊にまとめた本が出来上がりました。
対談集 春風問学
2012年に行い、本の冒頭に収録されているドイツ文学者でエッセイストの池内紀さんは、
対談のなかで、
死によって周りから人がいなくなることを「引き算」、
それに対して、言葉の世界は「足し算」が可能な世界であると仰った。
幼いころに父を亡くされ、
母と兄も、
池内さんが若いときにお亡くなりになった。
その実体験からくるところのことばであったと思います。
出来上がった本を静かに繰っていると、
池内さんの仰ったことばが
ひしひしと胸に迫ってきます。
どきどき、でも、わくわく楽しく、親しく、お話を伺った長田弘さん、池内紀さん、
そして、桂川潤さんはもうこの世にいません。
でも、
本の上の文字をなぞっていくと、
お話しぶり、表情、どこで笑い、どのことばのところで間があったか、
などなど、
言霊となって蘇ってきます。
そのときどきのことばが、
時間の粒となり降り注いでくるようです。

 

・訪ね来て湖面の秋の寂しかり  野衾