『男の生活』

 

敬愛する中条省平先生が、
『マンガの教養 読んでおきたい常識・必修の名作100』(幻冬舎新書、2010年)
のなかで、
「泥くさいショーモナさに噴きだす」と絶賛していたので、さっそく読んでみた。
中崎タツヤ[著]『完全版 男の生活』(白泉社、2004年)

 

42ページ目「完ペキの男」
一コマ目。
ジャケット姿の編集者らしき男が、目の前の向き合う男に笑顔で話しかける。
テーブルにコーヒーカップが置かれているから、
場所はどうやら喫茶店。
「中崎さんてどんな人なんですか?」と編集者。
それに答えて、ウソかホントか、割とイケメンの中崎が
あっさりと、
「ボクってホラ漫画なんか描いててけっこう評価されてるわけだけど、
一所けんめいやってんじゃないのね」
二コマ目。
中崎がウソかホントか、
「まあ、ウチが病院なんかやってるし、
ボクも医師免許もってて生活のこと考えなくていいでしょ」
それを聴いていた編集者らしき男のひたいに汗。
三コマ目。
調子に乗った中崎が、
「それにこの顔でしょ。出身は麻布なんですけどね」
編集者の顔に怒りのしるし。
四コマ目。
さらに調子に乗った中崎が、
「学生のころはよくケンカもしたけど、負けることはめったになかったなあ」
編集者の肩、テーブルに置いた握りこぶしが小刻みに震え。顔には怒りマーク二つ。
五コマ目。
「ボクのことイヤな奴って思ってるでしょ」
編集者らしき男の目はすわっている。
ここで中崎が意外な発言。
六コマ目。
「でもチンポが小さいんですよ」
それを聴いた編集者らしき男の目が、文字どおり、・・
そして最後、
七コマ目。
中崎から顔を逸らし、うしろ向きになり泣いているような編集者らしき男がポツリ
「…よかった…」
中崎、うつむき加減に「よかったはないだろ」

 

文字だけだと、このマンガのショーモナさがうまく伝わりませんが、
実に、
なんとも爆発的にショーモナくて、
敬愛する中条先生がおっしゃるとおり、
休日この箇所を読んでいて思いっきり噴き出しましたら、
ちかくにいた家人に
「またーーーっ!」
って言われた。
気持ちを落ち着かせ、
すこし静まった脳裏に浮かんだのは、敬愛する中条先生の、秋の湖面のような端正な顔。
あの中条先生が、
このマンガを、
どんな顔で読んだのかと思った
ら、
想像するだに、そちらのほうが面白くてぶっ飛び破壊的で、
噴き出しそうになりました。

 

・さびしさを住み処とすなり秋の雲  野衾