ありがたい一日

 

編集長の岡田くんと学習院大学へ。
仏文の中条省平さんと小一時間ほど面談。
昭和の名編集者・安原顯が始めた創作学校でお会いしたのが始まり。
中条さんは先生、わたしは生徒。
以来、四半世紀、
いまもしたしくお付き合いさせていただいております。
その後、
飯田橋へ移動。
タリーズコーヒーへ入り、
コーヒーを飲みながらゲラ読み開始。
まわりを見れば、
まるで図書館のような静けさ。
ノートパソコンを広げ勉強、仕事にいそしむひと、ひと、ひと。
店はあきらかにその種の客を想定しているようで、
テーブルには椅子一脚ごとにコンセントが設置されています。
時代はこうなのだなと改めて納得。
電話がないせいか、
ゲラ読みの作業がことのほか捗りました。
七時に装丁家の間村俊一さんご指定の店へ。
こんかいの詩集『鰰 hadahada』を祝ってしばし歓談。
間村さんからサインを所望され、
しかも、
イラストを添えてくれと言われ、
「わたくしの描く絵は、三歳児にも及ぼないものですから」
と丁重にお断りするも、
そういうのがいいとおだてられ、
覚束ないながら、
じぶんの似顔絵のようなものを描きました。
また、
ずっと欲しかった間村さんの画集『ジョバンニ』に触れるや、
「あげるよ。まだ少しあるから」
と言って、つと立ち上がり、
店を出て事務所へ帰り、
『ジョバンニ』をとってきてくださいました。
いやぁ驚きました。
うれし恥ずかしありがたし!

 

・清方の女性(にょしよう)来てをり花すすき  野衾

 

あかねさんを悼む

 

矢萩多聞さんのお母さまで、
アジアの輸入雑貨店ラヤ・サクラヤのオーナー矢萩あかねさんが、
今月九日、
脳血栓のためインドの地で亡くなりました。
七十歳でした。
春風社を立ち上げる前、
ショーウインドーに置かれていた木彫りのガネーシャ像に
ひかれるようにして入ったのが
そもそもの始まりでした。
多聞さんにも
そのお店で出会いました。
多聞さんはもとより、
あかねさんとも
ずっとながくお付き合いさせていただきました。
今月九月一日に
春風社にてトークイベントをおこなった際、
あかねさんはご夫婦で参加され、
そのとき話したのが最後になりました。
あかねさんのクックっとくすぐったそうに笑う声、
お茶飲んでいきませんか、
あらもう帰っちゃうの、
また寄ってください、
ゆっくり
ぽつぽつと話すあの声と語り口が
いまも耳に残っています。
こうして書いていると、
あ~ら、みうらさん、
うそよ~
うそに決まってるじゃない、
……………
温かいあの声を聴けなくなったということが
いまだに信じられません。
ガネーシャは商売の神様でもあります。
創業の地である保土ヶ谷の拙宅の玄関にいまもあります。
あかねさんのご冥福をお祈りします。

 

映画『浜の記憶』を観る

 

シネマ・ジャック&ベティにて、
大嶋拓さんが監督・脚本をつとめた『浜の記憶』を観てきました。
齢93の漁師・繁田とカメラマン志望の少女・由希が織りなす出会いと別れ。
シンプルなストーリーの中に、
家族とは? 老いとは? 愛するとは?
ふかく不易の問題が
しかつめらしくなく提起されており、
風光明媚な鎌倉の自然をたのしみながら、
じぶんのなかに浮かびくる
いろいろな想念を味わいました。
とくに、
じぶんの父親を
「あのひとはそとづらがいいのよ」
ということまで口にする老漁師の娘・智子と由希との会話
は圧巻。
家族の難しさをつくづく考えさせられました。
そのシーンを見ながら、
ふと、
家族というのは
生きているあいだは
この世の軸、
いわば横軸でつきあい
関係するしかないのかもしれない、
それに対し、
見知らぬ人との一期一会(この映画の場合、老漁師・繁田と由希)は、
この世をつらぬいて光芒を発する
垂直の軸において時と場を与えられる、
そんなことを感じ考えさせられました。
鎌倉の空、海、寺、人びとの笑顔、何気ない会話ともあわせ、
一時間弱のみじかい映画ながら、
ふかくたのしく堪能させていただきました。
おススメです。
シネマ・ジャック&ベティでは、
11月22日(金)までの上映となります。

 

・交はすごと烏鳴きをり秋の朝  野衾

 

艶な万葉集

 

朝月(あさづき)の 日向(ひむか)黄楊櫛(つげくし) 古(ふ)りぬれど

何しか君が 見るに飽かざらむ

 

一首は、櫛に寄せる恋。
朝月の日に向かうというではないが、使い古した日向の黄楊櫛のように、
私たちの仲はずいぶん古さびてしまったけれど、
どうして、あなたは、いくら見ても飽きることがないのでしょうか。
の意。
後朝(きぬぎぬ)の感慨であろう。
一晩愛撫されたのちの、女の満足感、
それにつけても別れたくないという思いに由来する心情と見える。
「古りぬれど」とあるけれども、
老女のうたではない。
(伊藤博『萬葉集釋注 六』集英社文庫、2005、pp.156-157)

 

なんとも艶な歌ではないか。
こういうのが万葉集にはけっこうあって、ドキッとします。

 

・人麻呂の潮騒ゆかし秋の風  野衾

 

billboard TOP40

 

テレビのチャンネルをカチャカチャやっても
どれもなんだかおもしろくなく、
テレビ神奈川にしてみました。
ふだんテレビ神奈川の番組を見ることはあまり、
というかほとんどありません。
tvkさんすみません。
きのうの夜の八時台でした。
そのテレビ神奈川で
billboard TOP40というのをやっていました。
ビデオクリップとともにアメリカのヒット曲が流れます。
歌も映像も面白くて
ついつい見てしまいました。
歌全体から受けた印象は
アジアンテイストの曲が多いなあということ。
インドっぽいとでもいうのか。
ビデオクリップも面白い。
デヴィッド・リンチの映像を超みじかく
コミカルにした感じ
とでもいいましょうか。
とにもかくにも面白かったので、
水曜日の夜はこれからこれを見るようにしよう。

 

・海神(わたつみ)に月は一つや伊良湖崎  野衾

 

鳩サブレーは

 

テレビのクイズ番組を見ていると、
食べものの写真が表示され、
さあどこの都道府県の食品でしょうか?
みたいな問題が出されることがあり、
そんな折にも、
鳩サブレーが登場し、
さすが神奈川を代表するお菓子なのだなあと認識を新たにします。
その鳩サブレー、
甘すぎずシンプルで柔らかい味はご存じのとおり、
ではありますが、
こぼさずに食べるのが至難の業。
かわいい鳩の形をしていますから、
できることなら
形そのままに袋から出し
両手で持って形を確かめ目でも味わいたい。
それからおもむろに口へ運ぶのですが、
歯で割ると、
例外なく粉がこぼれ床に落ちます。
細心の注意を払ってしずかにゆっくり行うも、
やはりいけない。
仕方なく、
このごろは袋を破るまえに
鳩をいくつかに砕くようにしています。

 

・人麻呂のなごり身にしむ伊良湖崎  野衾

 

脈診

 

週に一度、
鍼灸師の朝岡先生(秋のトークイベントに参加していただきました)
に診てもらっていますが、
ベッドに横になったわたしの手首をとり、
脈を診ます。
しばし。
「ん!? なにかありましたか?」
「え?」
「すこし緊張しているようですが」
「とくにこれといって…。所用で秋田に帰ってきましたが」
「いつですか?」
「おととい行って、きのうこちらに戻りました」
「ああ、そのせいですね」
「ちがうものですか?」
「トクッ、トクッと、強く打ちますから。
安定しているときの脈はころころ転がるように打ちます」
しかるべきところに鍼を置き、
間をおいてまた脈を診ます。
そうしているうちに、
だんだんうつらうつらしてきます。

 

・伊良湖の海(み)夜中をさして月のぼる  野衾