朝月(あさづき)の 日向(ひむか)黄楊櫛(つげくし) 古(ふ)りぬれど
何しか君が 見るに飽かざらむ
一首は、櫛に寄せる恋。
朝月の日に向かうというではないが、使い古した日向の黄楊櫛のように、
私たちの仲はずいぶん古さびてしまったけれど、
どうして、あなたは、いくら見ても飽きることがないのでしょうか。
の意。
後朝(きぬぎぬ)の感慨であろう。
一晩愛撫されたのちの、女の満足感、
それにつけても別れたくないという思いに由来する心情と見える。
「古りぬれど」とあるけれども、
老女のうたではない。
(伊藤博『萬葉集釋注 六』集英社文庫、2005、pp.156-157)
なんとも艶な歌ではないか。
こういうのが万葉集にはけっこうあって、ドキッとします。
・人麻呂の潮騒ゆかし秋の風 野衾