石巻かほく

 

・五月雨や可なく不可なく快もなし

今年二月から始まった石巻かほく紙の
「橋本照嵩さん 写真集『石巻 2011.3.27~2014.5.29』紙上展」
ですが、
明日掲載されれば、
折り返しの二十回目を迎えることになります。
年明け早々根拠もなく、
今年はなんだか
原稿書きの年になりそうだぞ
の予感が
なんとなくありましたが、
このことだったようです。
写真集から毎回、
一枚ないし二枚の写真を橋本さんがえらび、
それに添え、
解説文というわけでない短文を
書かせてもらっていますが、
これまでにない経験で、
苦しくも
楽しい時間を味わっています。
地元の皆さんが
どんな風に読んでくださるか、
そのことを一番に想像しつつ書きますが、
想像の世界で
石巻に出向いたり、
石巻からお招きしたり、
夢の中でお目にかかったり、
物理的な距離がだんだん埋まっていく
感じを体感し、
これも新しい経験となりました。
さらに一歩でも二歩でも
近づきたいと念じています。

橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の十九回目が掲載されました。
コチラです。

・夏服にあわせ夏のズボン穿く  野衾

誤植を見つけたら

 

・叩くほどぬめり増したりミズタタキ

読んでいる本に誤植を発見したとき、
みなさんはどうしていますか?
あ、誤植だ、
と見つけても、
そのままやり過ごすことも考えられますが、
職業病とでもいうのか、
わたしの場合、
そのまま次の行へ眼を移すことがなかなかできず、
結局、
鉛筆で小さく直してから
ということになります。
古本屋に売るつもりのない、
かといって、
さしあたり再読の予定がない本であっても、
誤植となれば直さずにいられない。
やはり職業病なのでしょう。
直すと
気持ちがスッとしますから、
だれのためでもなく、
自分のため。
古い本を読むことが多くあり、
そこに誤植を見つけると、
自分のためが第一ではありますが、
すでにこの世にいない著者から
へ~よく見つけてくれたね、
こりゃどうも、
なんて、
褒めてもらった気にもなります。
『退屈讀本』(大正十五年新潮社)では、
著者・佐藤春夫さんから
ずいぶん褒められました。

・雨の日を正座で叩くミズタタキ  野衾

緩急、音の響き

 

・紫陽花や往きも帰りも咲いてをり

鎌倉をカマキューラと呼んだ詩人の西脇順三郎は、
ロードーモンダイの音の響きも、
気に入っていたようです。
ロードーモンダイは労働問題。
ロードーを
たっぷり思いっきり伸ばし、
モンダイを
鋭くシャープに言い切る。
全角のモンダイでなく、半角のモンダイ。
ロードーモンダイ。
なんとなく、
気持ちいい。
ホーーーーーーー、
と、
たっぷり伸ばして、
ホケキョ
と短く言い切るのに似た感じ。
ほかに、
トーローナガシ、
ギタージンギ、
キョーコートッパ、
プープーセイジンとか。
これって、
滝の上に水現れて落ちにけり、的。

・五月雨を待つ心地して空見上ぐ  野衾

映画評論トップ3鼎談のご案内

 

・しっぽりとくるまっていたき梅雨湿り

ゴダールやトリュフォーは知っていても、
アンドレ・バザンを知っている人はそう多くはないでしょう。
かく言うわたしも、
ついこの間まで知りませんでした。
バザンは、
ゴダールやトリュフォーを育てた映画人であり、
彼の『映画とは何か』は、
映画表現とは何かを知るための古典
といってもいいでしょう。
そのバザンについて、
東京大学教授の野崎歓さんが上梓したのが、
『アンドレ・バザン 映画を信じた男』(春風社)
バザンの映画論と人となりを紹介しています。
きのう出来てきました。
来週には一般書店でも求められます。
この本の刊行を記念し、
学習院大学教授の中条省平さん、
映画史家の四方田犬彦さんをゲストに、
バザンをめぐって鼎談を開催することになりました。

日時:6月25日(木)19時~
場所:代官山蔦屋1号館2階

お申し込みは、
代官山蔦屋1号館1階レジカウンターか、電話で。
電話:03(3770)2525

*参加ご希望の場合は、
イベント前までに代官山蔦屋書店で
本書をお買い上げいただくことになります。
どうぞふるってご参加ください。

・金目鯛でろりぬめって目玉かな  野衾

眞奈美さん

 

・詩集閉づ人間初夏の夕べかな

夢に冨士眞奈美さん。
連れ立っていっしょに歩いていました。
眞奈美さんとなら、
いつだって
楽しく
浮き浮きしてきます。
いつどこから現れたのか、
すぐそばでバシャバシャ写真を撮る青年、
カーキ色。
眞奈美さん、
手をかざしフラッシュの光を
ちょっと避けるようにしましたが、
撮られることを嫌がっている風ではありません。
俳優さんなので、
街にでれば毎度のことなのでしょう。
やがて写真青年は姿をくらまし、
ぼくは眞奈美さんと橋を渡り、
右手の商店街に入っていくようでした。
仕事忙しくないのかな、

心配になりましたが、
そのことを口にすると、
「あら、いけない! 忘れてたわ」
なんて思い出して、
せっかくの楽しい散歩が中断しそうな気がし、
ぼくからは
何も言わないことにしました。
眞奈美さんは、
店のウインドウを見ながらごくふつう。
ぼくは、
眞奈美さんの横顔を見ながら、
とくべつ感、
これは現実だろうかといぶかっています。

・金目鯛まん丸目玉透き通る  野衾

 

・喧しの町を灯して四葩かな

細かい字の校正で疲れ果て、
幽霊のように階段をふらふら下りてゆくと、
道の端になにやら黒い物体。
あっ!
うごいた!
シャッキーン!!
眼が覚めたよ。
ネズミだ。
それもけっこうでかい。
電車の線路や地下鉄で見たことはあるけれど、
ごくふつうの道に堂々と現れた
ネズミを見るのは、
都会に出てきて初めてかもしれない。
すぐそばにホテルがあるから、
そこに棲むネズミかも。
なんだか嬉しくなってケータイを取り出し、
写真を何回か撮るものの、
ネズミめ、
おとなしくしていてくれない。
あっちに走り、
こっちに戻り、
またあっちに走りして。
知らぬ間に若い女性が近づいてきて、
ネズミの写真を撮ろうとジタバタするわたしと
右往左往するネズミに
涼しい視線を投げはしたものの、
自分の進路を少しも曲げることなく
スッスッスッスッ、
我関せずとばかりに
歩いて行ってしまいました。
そんなこんなで
やっと撮ったのが下の一枚。
こういうとき
ケータイはダメだよなぁ。
すぐにシャッター切れてくれないんだもん。

橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の十八回目が掲載されました。
コチラです。

・梅雨晴れ間浮かれ鼠も踊り出づ  野衾

スマ吉くん

 

・時経ても色を弾けり白紫陽花

ほんとうの名前を知りません。
いつでも、どこでも、
トイレでも、
スマホを見ているスマ吉くん。
ぼくが昼の食事を終え会社へ戻ろうとすると、
向こうからスマ吉くん。
これから昼食をとりにいくのでしょうか。
もちろん、
手中のスマホを見遣りながら。
交差点を渡るときも見ているのかしらん?
つい先だって、
マイカフェで昼食を終え、
外へ出ると、
眼の前をスマ吉くんが横切りました。
きっとどこかで食べてきたのでしょう。
ぼくの数歩前を歩いていきます。
ぼくとスマ吉くんは同じビル内で働いているのです。
数歩前行くスマ吉くんは先にビルに入り、
エレベーターのボタンを押し、
箱の中に入りました。
すぐ閉めて上に上るかと思いきや、
ぼくの到着を待ってくれているようなのです。
スマホをずっと見ていたのに、
ぼくが後ろから着ていることをなぜ知っていたのでしょう。
恐るべしスマ吉くん!
ともかく、
小走りでエレベーターの中へ入りました。
すると、
スマ吉くんは、
スマホから目を離さずに、
「何階ですか?」
「あ。はい。三階をお願いします」
スマ吉くんは、
しょちゅうぼくとすれ違っているはずなのに、
スマホばかり見て
人を見ていないせいか、
ぼくがスマ吉くんと同じ階で仕事している
ことを知らないのかもしれません。

・梅雨に入り息吐く時となりにけり  野衾