整髪青年

 

・梅雨湿り喧騒の日を洗ひけり

朝、桜木町駅のトイレを使うことがよくありますが、
このごろ、
鏡に向かって神経質そうに
髪を整えている青年を見かけます。
右手の指先で
庇のような前髪をそっと撫で、
左手でスプレーをシュッ。シュッ。
口元を少しすぼめ
我が顔に見入り、
シュッ。
アンモニアと
甘い整髪料の匂いのトンネルをくぐり、
わたしはそそくさと用を足し、
掃除しているおばさんがいれば、
「ありがとうございました」
と礼を言い、
トイレから出て行こうとするのですが、
例の青年は
まだ己の髪型が気に入らないのか、
シュッ。シュッ。
おまえ、どんだけの顔なんだ、
きのうはトイレを退出しがてら、
大鏡に映る青年の顔を見てみました。
市川雷蔵に少し似ていました。
市川青年、
駅のトイレに限らず、
どこでもかしこでもシュッシュッ、
やっているのでしょうか。
机竜之介よろしく、
両眼は盲いてもシュッ、
刃の先にはシュッ、
チオビタドリンクのように
おそらく一日一本、
整髪料を消費しているものと思われます。

橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の十七回目が掲載されました。
コチラです。

同時に『新版 北上川』の紹介記事が
同紙に掲載されました。
コチラです。

・梅雨の日の草食む馬の背も濡るる  野衾