スマ吉くん

 

・時経ても色を弾けり白紫陽花

ほんとうの名前を知りません。
いつでも、どこでも、
トイレでも、
スマホを見ているスマ吉くん。
ぼくが昼の食事を終え会社へ戻ろうとすると、
向こうからスマ吉くん。
これから昼食をとりにいくのでしょうか。
もちろん、
手中のスマホを見遣りながら。
交差点を渡るときも見ているのかしらん?
つい先だって、
マイカフェで昼食を終え、
外へ出ると、
眼の前をスマ吉くんが横切りました。
きっとどこかで食べてきたのでしょう。
ぼくの数歩前を歩いていきます。
ぼくとスマ吉くんは同じビル内で働いているのです。
数歩前行くスマ吉くんは先にビルに入り、
エレベーターのボタンを押し、
箱の中に入りました。
すぐ閉めて上に上るかと思いきや、
ぼくの到着を待ってくれているようなのです。
スマホをずっと見ていたのに、
ぼくが後ろから着ていることをなぜ知っていたのでしょう。
恐るべしスマ吉くん!
ともかく、
小走りでエレベーターの中へ入りました。
すると、
スマ吉くんは、
スマホから目を離さずに、
「何階ですか?」
「あ。はい。三階をお願いします」
スマ吉くんは、
しょちゅうぼくとすれ違っているはずなのに、
スマホばかり見て
人を見ていないせいか、
ぼくがスマ吉くんと同じ階で仕事している
ことを知らないのかもしれません。

・梅雨に入り息吐く時となりにけり  野衾