リニューアル「春風新聞」

 

・新緑や雨一滴の命なり

春風社は、おかげさまで今年が十五周年。
9月27日の記念パーティをはじめ、
いくつかイベントが予定されていますが、
この機にあたり、
ご好評をいただいてまいりました「春風目録新聞」を、
「春風新聞」と改題し、
大幅にリニューアルいたしました。
なんと今回は特別の16ページ!
たっぷりの読み応えがあると思います。
表紙の写真は、橋本照嵩さん。
リニューアルに際しての組、デザインは、
十二年ぶりの新著
『偶然の装丁家』が成ったばかりの矢萩多聞さん。
表紙には新井奥邃のことばをあしらっています。
記念すべき今号の特集は、
「時を忘れさせてくれた本」
執筆者は九名。
長田弘さん「アッティカの少女の墓」
佐々木幹郎さん「わたしたちは古代人よりも老化している」
阿部公彦さん「栃折久美子『森有正先生のこと』――ものすごく迂遠な恋愛」
吉行和子さん「本箱一つ」
色川大吉さん「血肉化した透谷の詩文」
池内紀さん「恩地孝四郎『博物志』」
中条省平さん「甦る今のとき」
平尾隆弘さん「『やちまた』の時間」
中村邦生さん「一睡もさせない夢として」
また、
ご好評の連載は、
白井聡さん「ポストモダンの処方箋 13 謎を与えること」
長谷川宏さん「日々の風 暮らしのなかの哲学 9 幼児と暮らす日々」
中条省平さん「翻訳ピンチ! 13 ミツヒラトとユニオシの末裔?」
しりあがり寿さん「帰ってきたmini大河 12 軍師の計」
中島岳志さんは今回お休みです。
以上、
特集と連載の執筆陣の皆さんでした。
目録部分も前のものより読みやすくなったと思います。
コラムも充実!
横浜関連では、シネマ・ジャック&ベティの支配人・梶原俊幸さん登場。
「自著を語る」は、『天狼俳句の英訳――誓子・敏雄・綾子』の古平隆さん。
「営業部発 本屋に行こう」は、菊名にある石堂書店さん。
「この研究室が面白い!」は、
『ベルベル語とティフィナグ文字の基礎』の石原忠佳さん。
ということで、
リニューアルなった「春風新聞」
どうぞご期待ください!

・降りのこす処も無くて五月雨  野衾

あと何回のコナン

 

・コナンならキャラメル味のポップコーン

一年前にりなちゃんと約束した
『名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)』
を観てきました。
りなちゃんは今年から中学生。
昨年は、
おねえちゃんもいっしょでしたが、
今年は弓道部の試合が入り、
おねえちゃんは先に一人で観たそうです。
劇場版は年に一回なので、
りなちゃんも、
ひかりちゃんも、
もちろんわたしも、
年に一度のイベントとして楽しみにしています。
ポップコーンセットを買い、
いそいそと選んだ席に着きました。
映画が始まりました。
今回はアメリカ人が登場するので、
英語が話される場面で
日本語字幕がでるのはいいとして、
すべてのセリフについて
字幕がでるのはどうしたわけ?
不思議でしたが、
耳の悪い人にも楽しんでもらうためのものかなとも思いました。
確かなところは不明なれど、
これならば、
耳の遠い秋田の父でも楽しめる?
いや、
父はそもそもコナンを観ないか…。
なんてことは置いといて、
映画が終わる頃には
ポップコーンもほとんど無くなり。
ああ面白かった!
な、りなちゃん。
ん!?
ふんふん。そうか。
ホームズを好きで読んでいるりなちゃんにしてみれば、
コナンがコナンらしく名探偵ぶりをもっと発揮し
謎を解くシーンがさらにあってほしかった…。
なるほど。
館の外は天気もよく。
歩いて馬車道にある「勝烈庵」へ。
大好きな盛り合わせ定食を。
ああ美味しかった!
ね。
「みうらちゃん、また来年も観に行く?」
「もちろん!」

・とびつきり特別感なりくわ焼きは  野衾

父の電話

 

・香り立つ垣根身を寄す五月かな

帰宅途中に携帯電話が鳴り、
ひょいと見たら「秋田実家」の表示。
通話までのわずか二、三秒、
頭をよぎったのは、
二月に雪下ろしをしていて
梯子ごと地面に投げ出され、
背骨の軟骨を損傷した後遺症でもでてきたか、
ということ。
恐る恐る「はい。もしもし…」
「もしもし。おいだ。田植え終わったど」
「おいだ」は「俺だ」の意。
なんだ、そういうことか。
「なんだ」は余計ですがホッとしました。
少し心拍数が上がったようです。
近所に住む父の弟妹、
わたしの弟も手伝って無事、
今年の田植えがすべて終了したとのことでした。
ゴールデンウィークに帰省した折、
父のいとこが二日に亡くなったこともあり、
なんとなく落ち込んでいましたから、
安心させる意味もあって電話してきたのでしょう。

・息ひそむ五月の風呂の温さかな  野衾

孤独な作業

 

・新緑のぎざぎざ先の滴かな

著者からいただいた原稿は、
編集ソフトで組んでから出力し、
校正刷り、ゲラ刷りとして精読しますが、
弊社の場合、
ここにいちばん時間をかけます。
じっくりと丁寧に読み、
語調をととのえ疑問を記していきます。
チェックは朱でなく鉛筆で。
この作業を通じ、
営業トークとは別に、
弊社の仕事ぶりを
著者に分かってもらいたいと願っています。
時間をかけ、
時間はかかりますが、
面白いことも無類といっていいでしょう。
ゲラ読みは、
原稿と向き合う孤独な作業ですが、
集中してくると、
まるで言霊に乗り移られるかのごとく、
なんの巡礼に向かうのか、
同行二人の状態を呈してきます。
そうすると、
どんなに専門性の高い内容でも、
あたりまえのことながら、
文章は必ずそれを書いた人がい、
行住坐臥の暮らしが仄見えてきて、
ひと呼吸ひと呼吸、
たしかにそこに人がいると深く感じられます。
この感じをこれからも大切にしていきたい。
今日、
弊社の創立十五周年を期し
リニューアルした「春風新聞」の見本が届きます。

・新緑や内外(うちと)のしずく光りをり  野衾

忘れ防止対策

 

・真夏日の報にたじろぐ五月かな

子どもの頃から忘れ癖があり、
母にしょっちゅう注意されたにもかかわらず、
どうも生まれついての癖であるらしく、
が、
そういうふうに割り切って
割り切れるものでもなく、
大事なことを、
またモノを、
忘れれば忘れたで
けっこう落ち込みますから、
それなりの工夫をしてきました。
仕事について言えば、
このごろは、
幅広の付箋にメモをし、
机横の棚の背に貼り付けています。
パソコンのすぐ右手ですから必ず目に触れます。
幅広の付箋のいいところは、
書くスペースがそこそこあって、
情報を細かく更新できること。
時間の経過とともに、
仕事内容が具体的になったり、
約束の期日が延長したりすることはしばしばですが、
変更になった旨を記しておくと安心します。
仕事をていねいにするつもりで
付箋を新しいものに替え書き改めてしまうとむしろよくない。
文字の上を二重線で消し、
更新の日付を小さく入れておくことで、
時間が経っても事柄の経緯を思い出せます。
それでも不安になって、
在宅で仕事をしてもらっているY山さんに
電話で確認することも間々あり。
三つ子の癖はどうやら抜けず、
だましだまし
仲良く付き合っていくしかないようです。

・破れかぶれ超真夏日を待ちてをり  野衾

御殿山

 

・朝靄を透かし輝く五月かな

わたしが住んでいる丘は御殿山といいます。
タクシーの運転手に告げた場合、
「へ~、御殿山っていうんすか」と言われ、
つい、三平よろしく、
「えらそうでスイマセン」と口をついて出ることもあります。
長く住んでいるひとに尋ねても、
かつて御殿があったという話をとんと聞かず、
ならばなんで御殿山なの?と不思議でしたが、
このごろひょっとしたらと思わないでもありません。
保土ヶ谷橋から井土ヶ谷に向かう環状1号は、
井土ヶ谷切り通しとも呼ばれていて、
東向きの窓から切り通しの向かい側を見ると、
丘になっており、
緑の中に家が点在しています。
日没の頃、
晴れていると、
西日が丘を照らして黄金に輝きます。
十数年前、
モデルルームを見に来たときに、
まさにその時間にあたってい、
その景色と色に一目ぼれして、
あとさきを考えず速攻で購入を決めました。
御殿山は、
御殿のあった山、でなく、
御殿から見る夕陽に見まごうばかりの景色が楽しめる山
ぐらいの意味で、
ここに昔住んでいた人が付けた名前かと
このごろ勝手に思っています。

写真は、まるちゃん提供。

・新緑や水したたりて珠となる  野衾

日の出

 

・ほととぎす啼きてパソコン手を休む

この日記を書いている部屋の窓は東に向いており、
晴れた日の朝、
空がだんだん明るみを増し、
太陽が向こうの丘の上に顔を出すまでの時々刻々、
色の変化の眺めは一日の楽しみです。
どの季節の日の出も目を楽しませてくれますが、
いまは新緑の季節、
青葉若葉の息吹きはまた格別。
本を読む手を休め、
ときにベランダにでて手すりにつかまり、
ピンクや黄や紫や水色のグラデーションに見とれてしまいます。
『ユング自伝』にあった
アフリカのキャンプ地での夜明け、
丘の上で日の出を待つかのごとく居並ぶ
狒々たちの
印象深い記述を思い出したり。
きょうは少し曇っているようです。

・ひかり来て五月を碧く照らしけり  野衾