父の電話

 

・香り立つ垣根身を寄す五月かな

帰宅途中に携帯電話が鳴り、
ひょいと見たら「秋田実家」の表示。
通話までのわずか二、三秒、
頭をよぎったのは、
二月に雪下ろしをしていて
梯子ごと地面に投げ出され、
背骨の軟骨を損傷した後遺症でもでてきたか、
ということ。
恐る恐る「はい。もしもし…」
「もしもし。おいだ。田植え終わったど」
「おいだ」は「俺だ」の意。
なんだ、そういうことか。
「なんだ」は余計ですがホッとしました。
少し心拍数が上がったようです。
近所に住む父の弟妹、
わたしの弟も手伝って無事、
今年の田植えがすべて終了したとのことでした。
ゴールデンウィークに帰省した折、
父のいとこが二日に亡くなったこともあり、
なんとなく落ち込んでいましたから、
安心させる意味もあって電話してきたのでしょう。

・息ひそむ五月の風呂の温さかな  野衾